赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 41~45
ふらりと入って来た常連客のひとりが、店内の様子に驚く。
見たことのない女の子がひとり、水を得た魚のように店の中を飛び回っている。
常連客の入店に気がついた清子が、ひょこっと頭をさげる。
『いらっしゃいませ!』よく響く声が飛んでくる。
常連客が混み合う客席をかき分けて、厨房へすっ飛んでいく。
「おい。いったいどこから見つけてきたんだ。あんな上等な隠し球を。
可愛い可愛いで、店の中じゅうが大騒ぎになっちまっている。
まるで、にわか看板娘の登場だ」
「そいつがよ。俺にもよくわからねぇ。
恭子が連れてきた清子っていう女の子だ。
人手が足らなくて四苦八苦してると言ったら、自分から手伝いを
買って出てくれた。
客席にラーメンを配っているうち、可愛い、可愛いって客が騒ぎ始めた。
いつのまにか、人気者になっちまったようだ」
「浴衣が妙に似合っているし、物腰がやわらかくて見ていて気持ちがいい。
動き回る姿に華もある。
見た目といい、雰囲気といい、10代目の恭子とは月とすっぽんの違いだな。
しかしどこの子だ。あまり見かけない顔だが?」
「悪かったわねぇ。どうせ私は、月とすっぽんの10代目です。
愛嬌はないし、動作もキビキビしていません」
「おう。誰かと思えば10代目の恭子じゃねぇか。
なんだよお前も居たのかよ。居るなら居るで、ちゃんとアピールしてくれ。
つい心にも無い、余計なひとことを言っちまったじゃねぇかよ。
悪かったよ、10代目。で、あのこはいったいどこの何者だ?」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 41~45 作家名:落合順平