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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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 言われたとおりの金額を支払った美紗は、元来た道をとぼとぼと引き返した。再び大通りに出ると、人の波がますます増えたように感じた。二人連れが目に付く。街明かりに照らされる姿は皆、はしゃいでいるように見える。
 自宅へ向かう地下鉄の中で、美紗は高峰の言葉を思い出していた。

『子供が大きくなると、クリスマスはカミさんと二人だけになってしまう、というようなことを言ったら、日垣1佐、淋しそうな顔しましてね。そういう時期を迎えるまでには九州に帰ってやりたい、とこぼしていました』

 あの人が今夜、想うのは
 私じゃない……

 真っ暗な部屋に帰り着き、明かりをつけると、コートを着たまま、小さなソファにうずくまるように座った。また、胸が鈍く痛むような気がする。喉元に手をやると、プラチナの華奢なチェーンに触れた。ゆっくりとそれを引き出すと、温かな色合いに輝く誕生石が現れた。それを、美紗はぎゅっと握りしめた。これがあの人の精一杯の厚意なのだと、自分に言い聞かせた。

 何も食べないままベッドに潜り込んでいるうちに、眠ってしまっていたらしい。低いバイブレーター音に起こされて枕元の時計を見ると、十時を少し回ったところだった。美紗は物憂げに起き上がり、小さなテーブルの上に置いていた携帯端末に目をやった。職場に残っていた小坂からだろうか。何か緊急に対応すべき事案が起こったのかもしれない。
 寒い夜に再び職場に戻るのは億劫だが、急ぎの仕事を無心に片付けているほうが、気は紛れるだろう。そんなことを思いながら液晶画面を見た美紗は、息を飲んだ。着信していたのは、音声通話ではなく、メールだった。発信元は、日垣貴仁の私用携帯のアドレスになっていた。
 
『素敵なプレゼントを
 ありがたく頂戴します』

 添付されていた画像には、金色の文字が艶めく黒いラベルのボトルと、いつも見慣れた水割りのグラスが、並んで映っていた。

 どうして……?

 美紗は携帯端末を強く握りしめた。





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(「カクテルの紡ぐ恋歌 Ⅹ」に続きます。表紙に「Ⅹ」のリンク先がございます。どうぞ宜しくお願いいたします。本シリーズは、現在「Ⅺ」まで続いております。「カクテルの紡ぐ恋歌」のタグ検索で、シリーズすべてが表示されます)