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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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「月ごとに『誕生石』というものがあるとは、この歳になって初めて知ったよ。店の人に、十一月の誕生石はトパーズという石だと教えてもらって、これにしたんだ。どうかな」
 美紗は、ためらいがちにネックレスを箱から取り出し、手のひらに載せた。頭上のペンダントライトからの光を浴びた石が、可憐な色をいっそう輝かせた。

 警告めいた、あの青く鋭い光とは違う
 心を惑わす、あの紺の深い光とは違う
 温かな、心安らぐ色をした、彼が選んだ石

「あの、ありがとうございます。今、着けても、いいですか?」
 美紗は、柔らかな光が零れるような笑顔を浮かべた。恐る恐る、華奢なチェーンの両端を持ち上げ、首の後ろで留め具を掛けると、胸元に恥ずかしそうに収まった小さな石は、ピンクとオレンジの二つの色を交互に煌めかせた。淋しげな印象だった顔回りが、少しだけ華やかになった。
 日垣は、再び前髪をかき上げて、安堵したように微笑んだ。そして、「職場には着けてきてはだめだ」と言った。
「どうしてですか?」
「君がそれを身に着けているのを見て冷静でいられるほど、私はできた人間じゃない」
 美紗が意外そうな顔を向けると、日垣は照れくさそうに視線を逸らした。
「情報畑の人間は、なんだかんだ言って皆、観察力があるし、些細なことから結論を導き出すのが得意だ。特に、松永は勘がいいから」
「あ、そうですね。きっと……」
 二人は声を忍ばせて笑った。

 美紗は、日垣との約束を守らなかった。朝起きて顔を洗うとすぐに、ピンクとオレンジの二色に輝く石を身に着ける。それが、いつの間にか、習慣になっていた。仕事がある日は、チェーンを長めにし、首元までボタンのあるブラウスを着て、彼からの贈り物が決して外から見えないようにした。服の下で誕生石が揺れると、彼の温もりを感じたような気がして、心地がよかった。