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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「月ヶ瀬」 第八話

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「当時のことを知っている人がいるやろか、もう三十年以上前のことやろ」

「行かなわからへん。捜査と言うのは可能性があることはどんな小さなことでも見逃したらあかんねん」

「そうやったな。おれの車で行くか?」

「お前のは目立つからおれの車で行こう」

佐藤の自家用車で和田は木津川を下ったところにある奈良県笠置町に向かった。
笠置橋を渡って右側に江戸時代から続く老舗の旅館があった。

「ええ所やな。知らんかったわ、ここにこんな老舗旅館があったやなんて」

「せやな、お前はもっと高級なところにいつも泊まっているから分からへんね、ハハハ~」

「佐藤、それは偏見やで。まあええわ。入ろか」

宿の女将が対応したが見た目五十代ぐらいで、当時のことは解らないかも知れないと和田は感じていた。

「弁護士の和田って言います。突然お邪魔して失礼なこと聞きますがかまへんですか?」

「和田様、どのようなことでしょうか?」

「女将さんは地元ですか?」

「いいえ、ここに東京から嫁いでいます」

「そうですか、せやったら昔のこと、三十年ほど前のことが分かる従業員の人か、先代の女将さんとかご健在でしたらお会いしたいんやけど」

「お待ちください。帳簿やってもらっている高木と言う人が、先代の時から居ますので呼んできます」

暫くして女将と一緒に来たのは、白髪の腰が少し曲がっていた70代の男性だった。

「高木って言います。何か聞きたいことがあると女将さんに聞きましたが、何でっしゃろ?」

「お忙しいところすんませんな。和田っていう京都から来た弁護士です。こちらは友人の佐藤って言います。奈良県警の警部です」

「刑事さんですか!何かありましたんか?」

「違うんです。昔の事なんですけど、約30年ほど前です。こちらに岡崎康代さんと言う女性が働いていませんでしたか?」

「覚えてますよ、住み込みで確か働いてくれはったと記憶していますが」

「そうですか、良かった。その康代さんと親しくしていたお客さんっておらんかったですか?」

「岡崎さんと親しかったお客さん・・・」

高木はちらっと女将の顔色を窺った。軽く頭を下げたので話を続けた。
作品名:「月ヶ瀬」 第八話 作家名:てっしゅう