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てっしゅう
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「月ヶ瀬」 第八話

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和田は佐藤警部を訪ねた日、奈良県警で平成9年5月に月ヶ瀬村で起きた少女強姦殺人事件の資料をくまなく読み返していた。
供述調書によると、被告人岡崎誠治個人の異常な性欲からくる強姦殺人としか浮かび上がってこない。

誠治は犯行当時25歳。独身。被害者久保実智子は中学二年13歳。
十分に成人に達していた誠治が、計画的にまだ幼い実智子を性欲の対象として狙っていたとは考えにくい、そう和田は思っている。
しかし、自供の中で一貫してむらむらとして犯したくなったと述べていた。

犯行に及ぼうとしたときに激しく罵られたため、首を絞めたらぐったりしたので、そのまま性交に及び、死んだと思ったので地蔵のあるところの傍に埋めたとだけ書かれていた。

和田には納得できる答えを見つけ出したいとの思いがあった。
疑問の一つ目は、歩いていた実智子に何故声を掛けたのか?
二つ目は、叩いたりしないとわざわざなぜ言ったのか?
三つめは、何故地面を掘るという時間のかかる方法で水子地蔵がある傍に埋めたのか?

被害者はその日軟式テニス大会に参加して、学校から家に帰る途中だった。
学校から後をつけたということは無い。
とすれば、どこかで偶然出会ったと考えられる。つまり計画的な犯行ではないということだ。
もし計画的に襲うなら、車に連れ込むとか、草むらへ連れ込んでいきなり犯す。悠長な会話などしていたら誰かに聞かれたりするから、口を何かで塞いで一気に強姦に及ぶと考えられる。

最後の疑問は、遺体と思しき実智子の身体をどうしてわざわざ離れている水子地蔵まで運んで埋めたのかということだ。
隠すならもっといい場所が辺りを見回すとたくさんある。
茂みの中に隠せば発見はもっと遅れただろう。
見つかって欲しいとの思いがあったのではないかと、それと死んでも救われて欲しいとの思いが残っていて、だから地蔵の傍だということが和田には単なる欲望を満たすための強姦ではなかったと見えているのだ。

平成16年5月4日、和田弁護士は月ヶ瀬口の駅前で待ち合わせていた奈良県警の佐藤警部と合流した。

「佐藤、悪かったな休みに呼び出したりして」

「かまへんよ。あれからなおれなりに少し調べ直したんやけど、一つ解ったことがあるんや」

「そうなんや。興味あるな、何が分かってん?」

「お前のところに依頼してきた安田初江と言う女性のお母さんと久保清一との接点や」

「ほんまか?強姦やって考えてたけど違うんか?」

「それは分からへん。岡崎康代は月ヶ瀬村に来る前にな、笠置温泉の一軒宿で泊まり込みの仲居していたんや。村の役場の慰安会と称して時々久保清一はその笠置温泉へ泊りがけで行きよったんや」

「その旅館で清一と仲良くなったんやろうか?」

「今から笠置へ行って調べよか?」
作品名:「月ヶ瀬」 第八話 作家名:てっしゅう