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⑥残念王子と闇のマル

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決意


父上に腕を掴まれ、引きずられるように廊下を進む。

「ち…父上!待ってください!」

私が叫ぶと、父上がチラリと斜めにふり返った。

「明日は、カレンの誕生パーティーがあります。」

その言葉に、ようやく父上は足を止める。

「…そこまでは…一緒にいさせてください。」

肩で息をしながら訴えると、父上が私の腕を離した。

「吐き気は?」

尋常じゃない大量の汗を流し呼吸が整わない私の後頭部に、優しく手が添えられる。

「バレるわけにいかねぇんだぞ。」

父上は私をそっと抱きしめると、そのまま抱えあげた。

「カレンは、賢い。」

私の背中を撫でながら、優しく言葉を紡ぐ。

「ごまかせんの?」

私の呼吸が落ち着いてくると、父上は懐からカプセルをひとつ取り出した。

「これ、聖華にはよく効くんだけど。」

言いながら、私の口に押し込む。

「噛んでみな。」

言われた通り噛んでみると、プチッと音をたてて割れ、口の中に甘酸っぱいゼリー状のものが広がった。

後味も爽やかで、胸の重苦しさが軽くなる。

「どう?」

「少し…楽になりました。」

私がもぐもぐしながら答えると、父上の切れ長の黒水晶の瞳が三日月になった。

「やっぱ親子だな。」

そして頭をガシガシ撫でられ、父上の愛情に胸が熱くなる。

「じゃ、これあげとくから。」

小さな布袋を手に握らされ、父上は私を抱いたまま再び歩き始めた。

でも、向かう方向が先程と違う。

そして角を曲がったら私の私室、という場所で私を降ろした。

「じゃな。」

その言葉と同時に、父上の姿が消えた。

私は、父上がさっきまで立っていたところへ頭を下げる。

「マル、なにか探してんの?」

突然、後ろから覗き込まれ、思わずとびあがった。

「!?っつ!」

とびあがった瞬間、私を覗き込んでいたカレンの顎に頭突きする形になってしまう。

顎をおさえてうずくまるカレンの背中に、慌てて手を添えた。

「すみません!大丈夫ですか!?」

顔を覗き込むと、カレンの瞳から涙が滲んでいる。

「い…や、僕が突然うしろから声をかけたから…。」

その舌ったらずなしゃべり方が気になって、カレンの前に屈んだ。

「舌、噛んだんじゃないですか?」

カレンの顎を上向かせ、口をこじ開けると案の定、血が滲んでいる。

「…すみません…。寝るときに、消炎剤を貼りましょうね。」

すると、カレンが私の後頭部に手を添えた。

先程、父上にも同じことをされたけれど、父上と違って、それだけで胸がときめく。

甘い熱を帯びたエメラルドグリーンの瞳と、至近距離で視線が絡み、自然にお互い目を瞑りながら近づいた。

柔らかく重なった唇は当たり前のようにすぐに深く交わり、熱く絡み合う。

「…ん…っ!」

けれど、血の味と鉄の香りに吐き気が蘇り、思わず私はカレンの胸を押しやった。

拒絶されたカレンが、驚いて目を見開く。

(まずい…。)

私はカレンの視線から逃れるように目を逸らしながら、慌てて取り繕った。

「誰か来たら…。」

すると、カレンが私の耳を甘噛みして小さく笑う。

「も~照れ屋さんなんだから♡」

そして私を抱き上げ、私室の扉を開いた。

(…うまく、ごまかせた…かな?)

「マル、なんかいいもの食べた?」

私室へ入りながら、柔らかく微笑む純粋なカレンに…胸がズキリと痛む。

「甘くて、おいしかった♡」

そんな私に気づかずに、カレンは寝室のカーテンをくぐり、当然のように私をベッドに降ろした。

「さっき、父上にお菓子を頂いたので。」

再び口づけられそうになった私は顔を逸らして、さりげなく懐から父上に頂いたカプセルを一粒取り出す。

「いただきま~す♡」

カレンは可愛く笑いながら、私の指ごとカプセルを口に含んだ。

「噛んでみてください。」

言いながら、自分もひとつ食べる。

プチっと小さな音がした直後、カレンが輝く笑顔で私に顔を近づけてきた。

「おいし~♡…一緒に食べよ♡」

そして顔を近づけながら、私の手をカレンの胸元に持っていき、自分の服のボタンを外させようとする。

私は迫るカレンの唇を左手で止めつつ、握られた右手もグッと拳にした。

「…ん?」

カレンが、不思議そうに小さく首を傾げる。

「あの…ダメです。」

私は言いながら、ゆっくり身を起こした。

「…え?」

戸惑った表情のカレンの首に腕を回し、私はギュッと抱きつく。

こうすれば、口づけをされずに済むし…何よりもカレンに触れられる…。

「月のものが…始まったので…。」

顔を見られると嘘だと見破られそうなので、私はカレンの首筋に頬を寄せた。

やましさに、思わず体が震える。

それがカレンに伝わらないよう、私は力一杯カレンを抱きしめた。

「…ふふっ、マル、なに気にしてんの。」

カレンは私の背中を優しく撫でながら抱きしめ返してくれる。

「僕、我慢強いよ?一週間くらい平気♡」

鼓膜に直接響く、そのどこまでも透明な声に、私は目を固く瞑った。

(もう二度と…肌を合わせることはないんです…。)

「そっか~…でもちょっと残念だなぁ…。」

「…すみません。」

朝晩飽きることなく私を愛してくれていたカレンの言葉に、切なさが募り瞼に涙が滲む。

「違う違う。そういうことじゃなくて」

カレンが私の顔を覗き込もうと、体を離した。

(ダメだ、こんな顔を見られたらまずい!)

慌てる私をよそに、澄んだエメラルドグリーンの瞳が私の瞳を妖艶に見つめる。

「実はちょっと期待してたんだよね…赤ちゃんできてないかなぁって…。」

心臓がドクリと大きく跳ねた。

息が詰まり、体が震えることを止められない。

「あっ…いや、ごめん。そんなにすぐに授からないってことわかってるから…気にしないで?」

私の表情を、カレンは違う解釈をしてくれたようで、必死でフォローしようとする。

「マル…。」

頬を親指でそっと拭われ、私は初めて自分が泣いていることに気がついた。

「ごめん…そんなに傷つけることになるなんて思いもしなくて…無神経なこと言って、ごめん。」

泣きそうな表情のカレンに『大丈夫。傷つけていない。』と微笑もうとするけれど、なぜか言葉が出てこず涙が止めどなく溢れる。

(気づかれてしまう…!)

いつになく抑制のきかない感情に戸惑いながら、必死に忍の自分を取り戻そうとした。

けれど、焦れば焦るほど涙が止まらず、吐き気もしてくる。

その瞬間、黒い影がベッドの横に降り立った。

「姉上。」

理巧がその場に跪く。

その瞬間、不思議と感情の波が穏やかになり、いつもの自分を取り戻せた。

涙と吐き気もおさまり、ホッとする。

(助け船…ありがとう。)

私が心の中で理巧にお礼を言うと、理巧に伝わったのか、その無表情な黒水晶の瞳が三日月に細められる。

「今夜の晩餐会の、護衛の割り振りをそろそろ。」

「わかった。すぐ行く。」

適当な用件に私が頷くと、理巧はカレンを見上げ、一礼して消えた。

「今夜は、何にします?」

私はサッとベッドから降りると、クローゼットを開きカレンの衣装をいくつかベッドに広げる。
作品名:⑥残念王子と闇のマル 作家名:しずか