Slow burning powder
姫浦が見たら、どう思うだろうか。相手が気を許すのを待って、残酷だとおれのことを非難するかもしれない。しかし、自分の『生徒』が後ろから撃たれたのを見過ごすほど、おれは薄情じゃない。
稲場に電話をかけると、すぐに懐かしいような声が聞こえてきた。
「おう、お前か。どうした?」
「ホトケですが、顔は右半分ありませんよ」
「いいよ、左半分の歯はあるだろ?」
「はい」
おれが答えると、稲場は乾いた笑い声を漏らした。つまり、古野が言っていた『後始末』の話は本当だった。全員裏切って逃げるつもりだったんだろう。自分まで殴らせるとは、手が込んでいる。しかし、そうとなれば話は早かった。
「お前は話が早くていいよ」
おれの頭の中を覗いたような言葉。おれは笑った。それは、単に電話が嫌いなだけだ。
「これが終わったら、辞めます」
おれは返事を待たずに、電話を切った。顧客へホトケを渡すところまでは、やってやろう。それが姫浦の命を救うことになる。古野の死体が上がれば、消えたおれに追手が向くだろうが、それは仕方がない。
おれにだって、譲れないことがひとつはあったのだ。
いつか運命に追いつかれるとしても、その日までは、その記憶を誇りに生きていける。
作品名:Slow burning powder 作家名:オオサカタロウ