詩集【紡ぎ詩Ⅳ】~始まりの季節~
いつしか青空の向こう はるかな地平に熟れた果物のような太陽が
ゆっくりと沈んでゆく
紫紺の空に煌々と輝く満月の向こうから
蒼い導きの蝶がやってきた
私が立ち止まれば蝶もひらひらと羽根をはためかせながら宙に浮いている
私たちは並んで輝く月を見上げた
物言わぬコスモスたちが月の光を浴びて濡れている
コスモス畑の向こうにあるものを手に入れるためというより
その場所に辿り着くために道を歩き続ける
その方が大切な意味を持つのだと
ふと気づいた この道を歩き始めて二十五年めの今日
☆「今年、誕生日を迎える自分へ」
歩いてきた はるかな道程
今 立ち止まって振り返れば
私の後ろに長い長いひとすじの道が延びている
誰に対しても常に誠実でありたいと
心を浄らかな保ち続けていたいと
理想を思い描きながらも果たせず
自分が途方もなく醜い人間のように思え
落ち込んだ数え切れないほどの夜
闇色に染まりかけた心を抱えて空を仰いだ
瞳に映る満天の星たちが漆黒のビロードを飾る金剛石のようにまたたき
自分の心のありようから眼を背けず
ありのままの自分を受け止めるように教えてくれた
一日の半分を昼と夜がそれぞれ占めるように
誰にでも―たとえ聖人と呼ばれる人の心にも
けして眩い光ばかり溢れているのではないことを
そっと告げてくれた
あるときは自分が取るに足りないもののような気がして
自分がいやになった数多(あまた)もの夜
涙が溢れそうになった眼を見開いて庭を眺めた
宵闇に沈み込んでもなお凛として咲き誇る純白の花たちが
月明かりを浴びて淡く光る水晶のようにきらめき
自分の足りないところを数えるのではなく
自身で誇れるもの、幸せだと思えることを数えるように教えてくれた
どんなに美しい大輪の花でも― たとえ絢爛と咲く満開の桜であっても
うららかに光降り注ぐ日もあれば
冷たい雨を浴びる日もあるのだと教えてくれた
今年もまた誕生日が近づいてくる
私という人間がこの世に生まれたきた日
ふと立ち止まった私の前には何もない
私が一歩ずつ前へ進む度に新しい道が拓ける
焦らず たゆまず
ゆっくり愉しんで歩いてゆけば良い
ささやかな野辺の花のようだとしても
精一杯自分という花を咲かせれば良い
夜空にはいつもたくさんの星がまたたき
庭にはひそやかに咲く花たちがいる
星のように
花のように
ただ我が生命を懸命に燃やして生きなさい
この世に生まれてきて
今 自分が生かされているという奇跡こそが幸せだと伝えたい
―もうすぐ誕生日を迎える自分へ
作品名:詩集【紡ぎ詩Ⅳ】~始まりの季節~ 作家名:東 めぐみ