「月ヶ瀬」 第三話
「先生は関西ですか？」
安田初江はそう尋ねた。
「ええ、京都市内です」
「私も奈良ですねん。両親は大阪出身なんですけど」
「そうやったね。言葉は直りまへんね、ハハハ～」
「はい、夫に良く言われます」
「初めに初江さんがお母様から聞かれた言葉を確認させてほしいんやけど、そのままに言ってくれはりますか？」
「わかりました。覚えている範囲だけなんですけど、母は亡くなる一週間ほど前になって、ちょっと回復したように見えたんです。それまで無言だったんやけど、初江って声掛けてきやはって、何？っていうたら、おまえのお父さんは村長さんやって言うんです。何度も聞き直したんやけど同じことのくりかえしやったんです」
「その時お父さんはお母さんと一緒に居らへんかったんですか？」
「お父ちゃんはお酒ばかり飲んでたから、聞いてなかったと思います」
「そうなんや、母親がそんなときに困った人やなあ～」
「村では私たちはちゃんとした仕事に就かしてもらわれへんかったし、お父ちゃんもその時はお母ちゃんの収入で食べてたさかいに、荒れてたと思います」
「なるほどなあ。なんでお母さんは初江さんに村長がお父さんやって言わはったんやろう、どう考えてます？」
「そのことはお母ちゃんが死んだ後に考えました。考えて、考えて、ひょっとしたら弟の誠治がやったことに関係してるんやないやろうかって思うんです。弟はあんな形で死にましたから、ひょっとしてどこからか私が村長の子供だと知らされたんやないやろうかって、それでそのことを言いに行ったら酷いことを反対に言われて逆上して・・・」
「う～ん、そうやったんか。自殺したんは、誠治さんが世間で言われているような鬼畜同然みたいな人間とはちがうとあなたに言いたかったんやないやろうかね。被害者の久保実智子さんに罪はないやろうけど、つながりはあったんやね。警察の事情聴収でも本当のことは喋ってないみたいやから、それはお姉さんを気遣ったんやろうね」
初江は和田が言った、弟の岡崎誠治が自分を気遣っていたという言葉に涙した。