「月ヶ瀬」 第三話
出されたお茶を手にして和田はそう尋ねた。
「はい、今回の依頼者は旧姓岡崎初江さん、現在は安田初江さんの夫である、安田純一さんです。年齢は45歳、初江さんは38歳です。二人の子供は一人を除いて高校を卒業後就職しています。下の娘さんだけが高校一年生で就学中です。今回の依頼については子供さんには知らせていないそうです。そこは教えないで欲しいと言われているんです」
「そうか、依頼者の子供に何か聞くということはあらへんやろ」
「それはそうですが、一応言われているので」
「親にしてみれば、自分の過去や夫婦関係の事、特に男女のことは子供に知られたくないやろうし、聞かれたくない部分やさかいにな。それにしても、よく依頼者はこんな秘密がわかったな」
「それはボクも思うんですよ。何でも母親が亡くなる前に寝言のように初江さんにつぶやいたというんです。悔しかったのでしょうか、真実を言わないと死ねないと思ったのでしょうか分かりませんけど、ボクは黙っていて欲しかったと思っています」
「うん、せやな。お母さんは息子さんの無念があったやろから本来なら知らせるようなことではないと思うんやけど、意識がもうろうとした中でずっと胸の中に隠してきたことが出てしまったのやろうね。人間の性(さが)を感じさせられるわ」
山崎友和弁護士事務所を安田が訪ねてきたのは三か月ほど前の事だった。
安田純一の妻である初江は母親の康代と父親との子供ではないというのだ。
康代が口に出した父親の名前は月ヶ瀬では誰もが知り、そして村長経験もある人物だった。
認知はおろか養育費も支払っていないので、せめて16歳までの責任をとらせるように掛け合って門前払いされるようだったら裁判を起こして村の連中や社会にその無責任さを知らしめたいと依頼されていた。
約束の時間になって安田夫婦は山崎の事務所にやって来た。
「お世話になります。安田純一です。こちらは妻の初江です」
和田に向かって挨拶を交わした。
「和田保って言います。山崎弁護士の妻静子の兄にあたります。これからのことは引き受けさせて頂きますので、よろしくお願いします」
「和田先生、山崎先生がこんなことになるだなんて、私たち大きな責任を感じていますので、何としても先生を怪我させた犯人を調べて欲しんです」
「それは私も身内ですから十分に心していますよ。必ず見つけ出しますよ。では少しお話を聞かせてくれはりますか?」
「はい、今回の依頼者は旧姓岡崎初江さん、現在は安田初江さんの夫である、安田純一さんです。年齢は45歳、初江さんは38歳です。二人の子供は一人を除いて高校を卒業後就職しています。下の娘さんだけが高校一年生で就学中です。今回の依頼については子供さんには知らせていないそうです。そこは教えないで欲しいと言われているんです」
「そうか、依頼者の子供に何か聞くということはあらへんやろ」
「それはそうですが、一応言われているので」
「親にしてみれば、自分の過去や夫婦関係の事、特に男女のことは子供に知られたくないやろうし、聞かれたくない部分やさかいにな。それにしても、よく依頼者はこんな秘密がわかったな」
「それはボクも思うんですよ。何でも母親が亡くなる前に寝言のように初江さんにつぶやいたというんです。悔しかったのでしょうか、真実を言わないと死ねないと思ったのでしょうか分かりませんけど、ボクは黙っていて欲しかったと思っています」
「うん、せやな。お母さんは息子さんの無念があったやろから本来なら知らせるようなことではないと思うんやけど、意識がもうろうとした中でずっと胸の中に隠してきたことが出てしまったのやろうね。人間の性(さが)を感じさせられるわ」
山崎友和弁護士事務所を安田が訪ねてきたのは三か月ほど前の事だった。
安田純一の妻である初江は母親の康代と父親との子供ではないというのだ。
康代が口に出した父親の名前は月ヶ瀬では誰もが知り、そして村長経験もある人物だった。
認知はおろか養育費も支払っていないので、せめて16歳までの責任をとらせるように掛け合って門前払いされるようだったら裁判を起こして村の連中や社会にその無責任さを知らしめたいと依頼されていた。
約束の時間になって安田夫婦は山崎の事務所にやって来た。
「お世話になります。安田純一です。こちらは妻の初江です」
和田に向かって挨拶を交わした。
「和田保って言います。山崎弁護士の妻静子の兄にあたります。これからのことは引き受けさせて頂きますので、よろしくお願いします」
「和田先生、山崎先生がこんなことになるだなんて、私たち大きな責任を感じていますので、何としても先生を怪我させた犯人を調べて欲しんです」
「それは私も身内ですから十分に心していますよ。必ず見つけ出しますよ。では少しお話を聞かせてくれはりますか?」