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われら男だ、飛び出せ! おっさん (第一部)

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7.思いを家族に



「なあ、俺が警察辞めるって言ったらどう思う?」
 久しぶりに家族四人が揃った夕食、食後のお茶をすすりながら、優作はそう切り出した。
「ええっ? お父さん、警察辞めるって、剣道も辞めちゃうってこと?」
 真っ先に反応したのは娘の麻里、警察を、と言うより剣道を、と考えるところが麻里らしい。
「師範代は辞める事になるが、剣道は死ぬまで続けるさ」
「なら良いんじゃない? 今まで充分に働いてくれたんだし」
 あっさりしたものだが、優作にはありがたい。
「定年まであと少しだろう? 途中で放り出すのはなんだか親父らしくない気がするな」
 健一はそう言いつつ、優作の目をしっかりと見据える。
「いや、だらだらと続けて師範が引退するのを待つのは嫌なんだ、下の者も育って来ていて、次の師範の候補ももういるしな、幸いまだまだ体は丈夫で動けるから、何か新しいことに挑戦してみたくてな」
「なるほど、そういうことなら親父らしいや、でも、何を始めるつもりなんだ?」
「いや、まだ何も決めていないんだが……定年まであと少しだからって、しがみつくのも男らしくないと思ってな」
 その言葉を聴いて妻の久美もさっぱりと言う。
「出たわね、『男らしくない』が、そう言うからにはもう辞める事はあなたの中では決まっているんでしょう? 何を始めるにしても、私は反対しませんよ、どうせ反対しても無駄でしょうしね」
「みんな、ありがとう、男のわがままを許してくれ」
「わがままだなんて思わないわよ、お父さん」
「そうだよ、男が一旦決めたんなら、何も言うことはないよ、親父」
 二人の言葉を受けて、久美も拍手をする。
「さすがにお父さんの娘と息子ね、よく言ったわ、だけど、そうと決まったからには、二人とも家に入れてもらう月々のお金は一万円から三万円にアップしてね」
「「うへぇ~」」


ファイト! ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) イッパ~ツ!


「みどり……父さんな、会社を辞めようと思うんだ」
 佳範はまず娘のみどりに打ち明けた、妻の和歌子は、どう思うかにかかわらず、おそらく反対することはない、みどりならば忌憚のない意見を言ってくれると思ったからだ。
 みどりは箸を丁寧に置くと、佳範の目をじっと見据えながら言った。
「本気なの?」
 その口調に責めるような調子は感じられない。
「あたしはいいと思うな、もうローンも残ってないし……でも、辞めてどうするの? 悠々自適?」
「いや、何か新しいことを始めようと思うんだ」
「具体的には?」
「まだ何も決まってない」
「また一人で頑張りすぎちゃうんじゃない? それが心配なんだけど……」
「それは大丈夫だ、実は優作と秀俊と飲んでる時に『一緒に何かを始めたいな』と言う話になってな」
「ホント? それなら大賛成、あの人たちと一緒なら、お父さんも一人で頑張りすぎちゃうことはなさそうだし、何より楽しそうじゃない?」
「ああ、何をやるにしても、楽しみなんだ」
「あのね、お母さんにはあたしから話す、お母さん、お父さんの言うことなら何でも黙って聴いちゃうでしょ? あたしから話せばきっと本音を言ってくれると思うから」
「そうか、そうしてくれるとありがたいよ、実は俺もそう思って、まずお前に話したんだ」

 
ファイト! ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) イッパ~ツ!


「あのな、父さん、会社を辞めようと思うんだ」
「えっ? どうして?」
 梨絵は目を丸くして絶句した。
 なにしろ父はショップでも人望と人気があることは知っている、不満があるとも思えなかったのだ。
「ショップはもう田中さんに任せられるしさ、女性用下着のアンテナショップだからな、オジンが居座るよりも、女性が店長になったほうがいいんじゃないかと思うんだよ、若いスタッフもそのほうが生き生きと働けるんじゃないかな」
「佑子さんとは相談したの?」
 梨絵は時折ショップに立ち寄るので田中佑子を良く知っている、名前の方で呼ぶほどに。
「それはまだだが、お前が反対でなければ、今日明日にでも話そうと思うんだ」
「そう……だけど、あと二年でしょ、佑子さんもスタッフの人たちもお父さんが邪魔だなんて思ってないみたいだけど……」
「じつはさ、優作、佳範となにか始めてみようかって話になってな」
「お酒飲みながらの話じゃないの?」
「それはそうなんだが、酒の上での話でも何でも、やつらは『やろう』と決めたことは絶対やるって知ってるだろう? 置いてけぼりを食いたくなくてなぁ」
「あ、そういうことなんだ、だったらもう決まったことじゃない」
「悪いな、お前に相談もせずに」
「あたしのことを気にする必要なんてないよ、もう卒業までの学費も払ってもらっちゃってるし、就職も決まってるし……お父さん、今までありがとうございました」
「なんだ、まるでお嫁に行くみたいだな」
「残念でした、まだその予定は影も形もありません、新しい人生を歩み出すのはお父さんのほうよ」
「ははは、そうなるのかな?」
「あれ? お父さんらしくもないよ、ファイト一発よ!」
「お……おう!」
 秀俊は、梨絵が突き出した拳に軽く拳を合わせた。