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われら男だ、飛び出せ! おっさん (第一部)

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6.消えない炎



「確かに部下が育たないのは俺にも原因はあるってことは自覚してるよ、だけどさぁ、正直言ってほとほと疲れたよ、定年まであと二年だけど、正直辞めたいと思うことはしょっちゅうあるよ」
 心底気を許している親友、優作と秀俊にだからこそ漏らせる弱音。
 ただ、佳範は二人に叱咤激励されるものと思っていたのだが……。

「そうかぁ……実は俺もなんだよな」
 優作の言葉に佳範は耳を疑った。
「お前が……か?」
「そんなに驚かなくたって良いじゃないか」
「だけど、お前がそんなこと言い出すとは思ってもみなかったからな」
「はっきり言って、俺は定年までに師範にはなれないよ」
「なんだかお前らしくないな」
「いや、頑張ればどうにかなると言うような話じゃない、今の師範に俺は人間性でも及ばないからな」
「いや、たとえそうだとしてもだよ、嘱託の身でも師範と言う立場はまた別なんじゃないのか? 今の師範だって定年は過ぎてるわけだろう?」
「そうだよ、だけど、後進も育って来ているんだ」
「そいつにも勝てないって言うのか?」
「あ、いや、そうじゃなくてさ、例えば俺があと十年やって師範になるとするよ、その時、後輩は今の俺と同じ歳だよ、また同じことの繰り返しさ」
「今の師範が長すぎるってことか……」
「いや、師範は達人だし人格者だよ、俺もこの上なく尊敬しているんだ、ただ、立派過ぎるが為に順繰りのペースが乱れたってことは言えるかも知れないけどな」
「まあ、でもいつかは師範になれるんだろう?」
「まあ、そういうことになるかもしれないが……」
「が、って言うのは何だよ」
「ただ今の師範が退いてエスカレーター式に師範になれるのを待ってるなんて、面白くないじゃないか」
「なるほど……」
「何か新しいことにチャレンジしてみたい気持ちもあるんだ」
「お前が剣道から離れるのは想像できないが……」
「剣道をやめたいなんて思っちゃいないさ、ただ、教える立場にこだわることはないんだ、竹刀一本あればどこでも鍛錬は出来るしさ、何か新しい事を始めてみたいんだ」
「いや、さっきお前らしくないと言ったのは取り消すよ、実にお前らしい考え方だな、ただ時が来るのを待つんじゃなくて、新しいことを始めてみたい……実にお前らしい……なんだか俺もそんな気になってきたよ……」
「おいおい、お前が今抜けたら雑誌はどうなる?」
「廃刊になるだろうな」
「それは無責任じゃないのか? それこそお前らしくないぜ」
「いや、そもそも存続するかどうか怪しい雲行きなんだよ」
「そうなのか? 評価は高いって自慢していたんじゃなかったか?」
「クオリティは保ってるつもりだよ、だけど会社にとってメリットがなけりゃクオリティが高かろうが低かろうが同じことさ、実際、今のスタイルではなくて、一般ユーザーからのレシピ情報を本にしたらどうかって案も出てるんだ、実際そのほうがメリットはあるだろうな」
「ああ、なるほど……」
「それに、ここまでスマホが普及すると紙媒体にこだわる必要もなくなっているしな」
「だとしたら編集長はお前じゃなくても良いわけだ」
「そういうことだ」
「そうか……二人で何か始めることを真剣に考えてみようか」
「そうだな」
 その時、それまで黙っていた秀俊が口を挟んだ。
「二人でって、どういうことだよ、俺を仲間外れにしようってのか?」
「そんなつもりはないけどさ、お前は別に問題を抱えていないだろう?」
「問題は抱えてないさ、だけど、俺もまだ消し炭になっちゃいないつもりなんだけどな」
「だけど……」
「さっきも言っただろう、田中って子が俺の後任を務められそうだって……お前たち二人が何か新しいことを始めるとしてだよ、どうしても一枚噛めない理由があるなら仕方がないが、そうでなかったら俺も参加したいじゃないか」
「いいのか? 娘さんはまだ学生だろう?」
「来春卒業さ、あと半年もないし、学費はもう払い終えてる、第二の人生を始めるとすればきりの良い時期でもあるんだ」
「そうか……だったら仲間外れになんてするはずはないだろう?」
「なんだかワクワクしてきたな」
 優作と佳範が目を輝かせている。
「俺もだよ」
 秀俊も大きく頷いて、もう一言。
「ああ……まだ何者になるのか、なれるのか全然わからなかった高校時代に戻ったみたいな気がするよ」
「おう! 男の若き血がたぎるぜ」
「優作の『男』が出たな! それにしても若き血は言いすぎだろう? ハートが燃えるくらいにして置けよ」
 佳範の目じりが下がっている。
「どう違うんだ? だけど本当だな、一気に四十五年若返ったみたいな気分だよ」
 秀俊が高校時代より随分と小さくなった力瘤を作って見せる。
「お前が一番言いすぎじゃないのか?」
「ははは、だが、具体的に何を始めようってんだ?」
「それはまだ全然……」
「だよな、たった今話が盛り上がったばかりだもんな」
「だけど本気だぜ」
「誰も本気じゃないなんて言ってやしないさ、二ヵ月後にアイデアを持ち寄るってことでどうだ?」
「よし来た!」
「異議なしだ!」
「よし、じゃあ、まだ何をやるか決めてないが、俺たちの第二の人生に乾杯しよう」
「ああ、それと変らぬ友情にもな」
「まだ見ぬ未来にもだ」
「「「乾杯!」」」