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いつか。きっと

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「だからサッカーもやってたんだけどさ、学校のクラブで……でも俺、テニスがやりたかったから、サッカーでもサイドバックでやたらムダに走り回ってた」
「それは、スタミナをつけようと思って?」
「そうだね、センターバックならともかく、サイドバックをやりたがる奴あんまりいなかったからチームにも都合よかったみたいでさ」
「サッカーやっててもテニスのこと考えてたんだ……」
「うん、やっぱりテニス好きだからな」

 その言葉は千夏の胸をチクリと刺した。
 自分も好きで始めたテニスだったはずなのに……。
 いつの間にか負担に思うようになって、でも、なんだか意地になってクラブで一番の座にばっかりこだわって……。

「でもさ、こっちへ引っ越してきたら、みんな週に六回練習してるのばっかりだったろ? なんか最初は気後れしたな、実際、みんな上手かったしさ」
「だけど、翔はサッカーしてる時でもテニスのこと考えてたんだから……」
「まあ、でも、サッカーはテニスと違ってチームスポーツだしさ、サイドバックをやりたいって言ったのと、やたら走り回ってたのはテニスにも役立つだろうって思ったからだけど、いいセンタリングとか上げられて、仲間がゴール決めてくれると快感だったしさ、やっぱり試合に勝ったりすれば嬉しくて仲間と一緒に喜んでたよ、あれはあれで楽しかったなぁ」
「今は? サッカーチームには入れないでしょ?」
「まあね、土日の練習に出られないからチームには入れないよ、でも、クラブが休みの日は放課後やってる、まあ、そんなにヘタじゃないから仲間に入れてもらえるしさ」
「でも、試合とかは出られない訳じゃない? むなしくなったりはしない?」
「月曜とかにさ、昨日の試合のこととかで盛り上がってるとちょっと寂しい気はするな、でもしょうがないよ、俺はサッカーよりもテニスを選んだんだからさ」
 そして、翔はちょっと照れくさそうに付け加えた。
「テニスではさ、俺、もっとずっと上を目指してるから……」
 ……そうなのだ、千夏だってクラブ内でどうこうではなく、日本で、世界で活躍することを夢見ていたはずなのに……。
「翔ならもっと強くなれるよ」
「そうかな、千夏にそう言ってもらえると何だかその気になるよ、千夏だって……」
「あたしは……もうこの辺りが限界かな……」
「何で? 初めて俺に負けたから? 12歳以下だと確かに男と女であんまり体力差ないけどさ、俺は急に背が伸びたもん、もう同じ条件じゃないよ」
「そうかな……」
「千夏のメンタルの強さってすげぇじゃん、俺なんかここってトコで緊張しちゃうんだよな」
「それはね、自信だよ、根拠なんかなくたって自分は負けないんだって思えばいいのよ」
「そっか……じゃころっけ一個でそのアドバイスなら安いな」
「じゃ、アイスも奢ってよ」
「え? 小遣いなくなっちゃうよ」
「嘘、じゃころっけ奢ってもらったからアイスはあたしが奢る」
 二人は顔を見合わせて笑った……。
 千夏もなんだかまたテニスが好きでたまらなかった頃の気持ちが甦って来るのを感じていた。


 翌年の正月、二人は鬼太郎茶屋の前で待ち合わせ、揃って初詣をした。

「ねえ、絵馬に何を書いたの?」
「テニスがもっと上手くなりますように、U-14に上がっても勝てますように……それから」
「それから?」
「千夏も勝てますようにって……千夏は? 何を書いたの?」
「あたしも同じ、U-14でも勝てますようにって……それから」
「それから?」
「その先は秘密」
「あ、ずるいぞ、俺は全部教えたのに」
「女の子には秘密があるもんなのよ」
 千夏はそう言って翔の手を取り、絵馬掛け所を離れた。
 なぜなら、(翔があたしの気持ちに気づいてくれますように)なんて書いたのを見られるのは恥ずかしかったから……。
 
 (終)



 この作品、『深大寺恋物語』と言うコンテストに応募して落選した作品です。
 ローカルなコンテストなので、と言うよりも深大寺とその周辺にちなんだ作品を募集しているのでローカルネタが必須です、東京・多摩地区以外の方には注釈が必要ですね(笑)
1. 深大寺 調布市の北部に位置する古刹です、隣接する神代植物公園と並んで、調布市では一番の観光資源となっています。
主人公が小学生なので作中には出てきませんが、蕎麦が名物、だるま市、ほうずき祭りも知られています
2. 桜田クラブ 実在のテニスクラブでジュニア育成に定評があります、あの松岡修三も通っていました。
3. 鬼太郎茶屋 原作者の水木しげる先生が調布に長く住んでいたことにちなんだ、カフェ、雑貨屋、ミニ資料館を兼ねた施設です。
じゃころっけは鬼太郎茶屋で販売されている、じゃこを練り込んだコロッケ。
作品名:いつか。きっと 作家名:ST