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寿命神話

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 このお話はフィクションであり、実際の団体、個人とは何ら関係はございませんことを了承願います。
 またこの物語は、ミステリーのような展開を呈しますが、実際はホラー(オカルト)小説であります。ネタバレになりますが、そのおつもりのお読みくださいませ。

              身元不明者の変死体

「最近、物騒な時代になったものだ」
 そう言いながら新聞を広げて独り言を言う人が増えてきた。
 確かに物騒な事件が増えてきたのは確かだが、物騒な事件というのは、昔からあった。むしろ物騒な事件が多かったのは、昔の方だったかも知れない。それでも今の世の中の方が物騒に感じるのは、昔のことが、次第に風化して行っているからに違いない。
 政治が乱れたり、天変地異が起こった時など、その兆候は大きかった。そういう意味では二、三十年に一度は、猟奇的な事件が頻発したりする。マスコミを何か月も賑わせるような事件も少なくなく、一年中、何かの事件でワイドショーは時間の半分以上使っているなどということが多かった。
 共通点としては、頻発する事件の裏には、必ず新興宗教が絡んでいたりするものだ。教祖と呼ばれる人が、事件が頻発する前から話題になり、マスコミへの露出度は激しくなる。超常現象を起こしてみたり、医者がさじを投げたような病気を治してみたり、不幸な人が増えている世の中では、救世主として崇められ、その強大なカリスマ性が、社会問題になっていたりした。
 そんな時、政治の乱れや、天変地異が起こるのはただの偶然だろうか? さすがに天変地異が宗教団体によってもたらされたとは考えられないが、政治の乱れなどは、どこかに暗躍する集団が、別に存在しているという発想も、まんざら笑い事ではないだろう。
 たとえば、二十年くらい前、ちょうど世紀末が叫ばれていた時期、何十年も続いた一党独裁の時代が終わった。国民からの信頼が地に落ちてしまった独裁政権に取って代わった野党勢力は、救世主のように思われたのだが、実際には救世主どころか、一度乱れた政治を元に戻すこともできず、余計な問題を引き起こして、数年で瓦解してしまった。
「もう何を信じていいのか分からない」
 社会不安が蔓延していた。
 失業者が増え、自殺者、行方不明者も増えた。そんな社会不安に乗じて出てきたのが、当時話題になった新興宗教だった。
 彼らは、急激に信者を増やし、
――人民の救済――
 を訴えた。
 信者には、俗世間との関わりを絶たせ、完全に表から見えない世界を作ってしまった。
 いきなり入信すると言って、家を出た信者もいたが、それはまだマシな方で、誰にも言わず、入信してしまう人も少なくなかった。それだけまわりの人に対して疑心暗鬼になっていて、誰とも話すこともなくなった結果、孤独の人生の中で選んだのが、宗教団体への入信だった。
 当然、急にいなくなったのだから、行方不明者ということになる。しかし、その人が行方不明になったということが発覚するのは、ひと月経ってくらいのことだった。
 自分のことだけで精一杯の世の中、他人のことをいちいち気にしている人などいるはずもない。そんな状況で、誰も一人くらいいなくなっても気にすることもなかった。
 そんな人が増えてきても、まだ社会問題にまでは発展しなかった。社会問題に発展したのは、警察高級官僚の家族が行方不明になって、やっと、世間も注目し始めたのだ。そんな世の中を見て、
「やっと、話題になったか」
 と、数人でテレビを見ながらほくそえんでいるのは、宗教団体の幹部連中だった。
「しょせん、今の世の中、こんなものさ」
 と一人が言うと、
「そうだよな。だから俺たちが暗躍できるんだが、この警察官僚もめでたいものだ。自分の家族が入信したと分かるまで、行方不明者の捜査を依頼したりしなかったんだからな」
 家族がいなくなった時の警察官僚の家での会話が手に取るように分かるようだ。
 ハウスキーパーの人たちは心配して、
「ご主人様、捜索願をお出しになった方がいいんじゃないですか?」
 と話をしても、
「警察官僚の家族が行方不明になったので捜索願いを出したなどというと、マスコミに叩かれるだけだ。もう少し様子を見てみよう」
 と言われ、それでも心配しているハウスキーパーが
「でも」
 と言いかけると、鬱陶しそうに、
「いいと言ったらいいんだ。余計なことはしないように」
 と、語句を強めて言った。
 さすがにハウスキーパーも困惑してしまい、暇をいただこうと考えたようだが、家族が心配で、とりあえずはそのまま使えることにした。
 もっとも、他に就職口の当てがあるわけでもなかったので、続けるしかなかったのだが、そんな自分を優柔不断だと思って責めてしまう状況を情けないと思うのだった。
 それでも、家族の行く先が今世間を騒がせている宗教団体だと分かると、強硬な態度に出たのだった。
「何とか口実を作って、やつらのアジトに捜索の手を入れられないだろうか? これは警察の威信にも関わることだからな」
 と言って、少しヒステリックになっていた。
 一見、家族のために必死になっているように見えるが、実はそうではなかった。家族などどうでもよく、自分の家族が今話題の宗教団体に入信したという事実を恥だと感じ、それをいかにして拭い去り、自分の地位をいかに留保できるかという保身にばかり気を取られていたのだ。
 ここで、宗教団体を一掃できなければ、下手をすると、さらに今の世の中酷いことになると思っていた。
 今の乱れた時代は、実は彼らにとってありがたいものなのだが、これ以上情勢が乱れると、本当にどうなってしまうのか分からない。何とか今の状況をなるべく長引かせて、自分の立場を強固なものにした状態で、世の中が修復してくれるのが一番望ましかった。
 宗教団体と警察の攻防は、なかなか一進一退、そこにマスコミの報道によって、国民の関心も高まっていた。
 宗教団体は、大きな要塞に守られていて、それはいみじくも刑務所のようだった。その奥で何が行われているのか分からなかったが、スポークスマンのような男が、警察やマスコミを一手に引き受けていた。
 警察の令状がなかなか降りないことで、警察内部でも、不信感が漲っていた。検察はどこかから圧力をかけられているようで、政府の要人にも信者がいるため、その連中が裏から手をまわしているようだった。
 問題はマスコミにもあった。報道至上主義のため、
――いかに視聴率を上げるか――
 ということに重きを置き、事実であっても事実を隠していたり、事実なのかハッキリとしていないことでも話題性があると思えば、あたかも事実であるかのように報道したりしたのだ。
 確かに報道の自由は憲法で認められているが、社会的な影響の大きいマスコミが、事実をねつ造してしまっては、社会不安が解消されるわけがない。次第にマスコミの報道がいくつもの勇み足だったことが発覚すると、人民の疑心暗鬼は最高潮に達していた。
 放送局も一局が悪者になってしまうと、集中攻撃だった。
 他のマスコミも、似たような報道をしていたはずなのに、最初に始めた者にすべての責任を押し付けて、自分たちを守ろうとしているのは、明白だった。
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次