ナルの夏休み エピソード0-0
南先生も「臨死体験」と「幽体離脱」をした
23世紀、先進国世界からは、ほぼ貧困と差別、犯罪がなくなった。人々の価値観は富ではなく、いかにしたら楽しく仕事をするかへと変化した。でも、相互監視で精神的に疲れる。情報が多すぎて、頭が疲れる。隣の人がどんなことを考えているか解る。そんな多くの情報をいちいち覚えていられない。
「私、幽体離脱とか臨死体験をしことはあるわ。臨死体験は、とても幸せな気持ちなれる。臨死体験をすれば人生観が変わる。人に優しくできるようになれるの。物質的なものでなく精神的なものに価値観が変わるの」
「南さん。私、臨死体験をしたけど全然覚えていないです。夢の中でお父さんとであって」
「そうなの。でも、月曜日のことは、絶対に思い出そうとしないほうがいいわ。富士宮先生の好意を踏みにじることになるから。それだけはやめなさい」
「南さん、どうやって臨死体験ができたの」
「ちょっと自治区に遊びに行ったときだわ。今から20年前、まだ若い時。本土では違法な娯楽も自治区では、合法のところがあって、時間が5分という条件で貯金を使って体験したの。興味があって」
「そうなの。でも犯罪になるのではないの」
これは危険な遊びではないかと思う。
「それが別の法律で『精神的に進化させるものに限り、これを禁じない』と書かれていて、私は自治区で臨死体験をしたわ。科学では証明できないのよ。なくなったおじいさんや、おばあさんとあった。川の近くで」
「なんだか夢に似ている」
「永遠に忘れられない幸せな時だった。幸せすぎて、すぐにおじいさんたちがいる世界に行きたくなった。それから、22歳までの思い出が走馬灯のように見えて、楽しいことしか思い出せない。憎しみ、嫉妬というネガティブな感情が私の心からなくなった。あの臨死体験から」
「そうなの。確かに私も臨死体験をした。あの脳内物質で作れる薬で。合法の薬品は高価だし」
「そうなの。私は既に電脳化しているから、幸福感を司る部分をナノマシンで刺激する。ひじょうに大量の幸福物質が吹き出す。頭が破裂する危険性あるので、緊急処置で医師を呼んで、私の頭にチューブを入れた。そこから未知の薬品の原料が作れる。だから、非常に高い臨死体験の料金は、逆にお釣りでなく、収入として戻ってきたの」
「そうなの」
私はうなずく。臨死体験とは人間が死ぬ直前の体験。ものすごく強い幸福感を感じる。それに影響されると、たいていの人は人生観が変わる。
「たった5分で、宗教生活5万年分の経験が得られたと思うの。人生5万年分の経験に匹敵するわ」
「5万年分の人生経験。すごい表現。想像できないわ。南さんは人格レベルはA+ですね。優しすぎる性格と出ています」
「そうなの。だから教師の仕事をすると、キリがないの。手抜きができないの。だから自分の時間がなくて。でも、私は幸せ。夢を与えるアイドルを育てられるから」
そのあと、南先生は幽体離脱もしたと言う。科学的に魂の存在は実証できない。同時にあの世はどこに、あるのかさえも、この23世紀の科学が発達した時代では謎のままである。
作品名:ナルの夏休み エピソード0-0 作家名:こーぎープリッド