ナルの夏休み エピソード0-0
早朝、多摩川の水の中へ水着で入って
午前3時50分、私はなんだか知らないけど、とても楽しい気持ちになっている。とてもハイになっている。
「紺色の空、夜明け前、とても幸せ」
「戸松さん。大丈夫ですか。今日は公立中学校の授業は中止です。病院の付近で、のんびり過ごしてください」
「はーい」
私は気分がハイになっている。ここから歩いて30分のところに多摩川がある。60年前に使われなくなった道路と橋があり、近くには廃墟になったトラック基地。運送会社の跡地がある。緑に廃墟が覆われている。
看護師さんに言った。
「私、多摩川で泳ぎたくなった」
「でも、まだ午前4時ちょっと前ですよ」
「いいから。いいから」
私は人間の脳から取り出した『幸福物質』の影響で気分が爽快。とても幸せな気持ちだった。月曜日のことは全然、覚えていない。地理の授業のとき、私にトラウマを与えるようなこと言ったことに責任を感じた先生から薬を飲まされたと聞いた。トラウマを与えるような話をしたことに責任を取ることになった。他のクラスメイトにもトラウマになっていないか、すぐに精神の検査診断がはじまったらしい。「らしい」というのは、私が看護師から聞いた言葉。
私は、気持ちが大胆になった。そして薄地の布地のレオタード状の水着を選んで、警護ロボットと一緒に一人で多摩川へ向かう。空色の水着がきれいに感じた。
周囲は深い森に囲まれている。徐々に下り坂を下りつづける。私はとても楽しい気持ちで大きな声で歌を歌う。
「お嬢さん。早朝に大きな声で歌ってもいいのですか。でも、歌のメロディは正確です。音の高さ早さが音符とほぼ一致しています。歌の才能があります。今のは特別なフォルダに録音させて保存します」
「ありがとう。褒めてくれて。あなたにも、音楽がわかるの」
「人間とは違って、音楽の良さはわかりません。感性とかイメージが理解できませんから」
「そうね。ロボットだから。でも、人間よりも音の高さがわかるでしょう。絶対音感みたいなものが」
「そうです」
私は水着のまま、薄い布地の水着をきたまま、早朝、多摩川へ向かう。
かつては東京には1000万人もの人たちが住んでいた。今はこの辺に多くの人が住んでいるのは、横田基地だった、横田空港の周囲のみ。
100年前、都内の再開発のため、地下に航空へリニアモーターカーが開通した。周囲には国際色が強い町がある。いろんな国の人たちが住んでいる。鉄道路線の近くに、私が転入しようと考えた「関東女学院」がある。
その近くには高層住宅もたくさんあるが家賃が高い。そこから、東を見ると、都心に超高層ビルがたくさん見える。ほとんどが、クラウドのデーターを保存するために建てられたビル。わずか10年でビル一杯分のデーターで満杯になる。
私は足を傷つけないように、サンダルを履き。朝食と飲み物を入れたバックを持ったまま、水着姿で多摩川へ向かう。私の脚もとに涼しい風を感じる。露出度が高い水着を着ている。
今は6月、昼間の時間が最も長い時期。午前4時半、私は多摩川についた。信号機がないから、歩くのを遮るものがない。
胸元が広く背中を大きく露出した水着を着て、多摩川の中で泳ぐ。一人だけだけど、とても楽しい。自然の音が聞こえる。虫の音、草が風でなびく音。木の枝の音。川の水の流れる音。とても、素晴らしい旋律。自然が作り出した天然のメロディ。気分は最高。私は機嫌が良くなっているのは、昨日、飲まされた薬の影響である。人間のストレスを緩和させる薬。これと同じことができるのは、脳にナノマシンを埋め込み脳細胞に刺激を与えることである。脳細胞に刺激を与えると、強い幸福感を感じる。何も薬がなくてもナノマシンを注射器で入れればいいけど、そうなると人間そのものがコンピューターの一部になる。本人の承諾が必要。必要性がある人間だけが審査を受けてナノマシンを埋め込む。
強い磁力には弱い。電磁波、放射線で簡単に破壊されてしまう。そうなると単なるゴミになる。血管の中にゴミがあれば脳梗塞になる危険性がある。まだ成長期である12歳の私は、脳の中にナノマシンを入れる資格がない。
足元に多摩川の冷たい水を感じる。
「冷たい。でも、気持ちいい」
私は警護ロボットに見守れながら、川の中で泳ぎ、魚たちと一緒になる。
作品名:ナルの夏休み エピソード0-0 作家名:こーぎープリッド