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真・平和立国

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 その頃日本では、在民党の宇部政権が提唱した主体的平和主義政策のもと戦後70年の長きに渡って守り続けてきた憲法9条に入れられたメスが、着々と平和主義国家日本という戦後の平和ボケ患者の腫瘍を取り除きつつあった。と、少なくとも一部の日本人や、欧米諸国では歓迎されていた。いわゆる集団的自衛権の行使容認である。
 しかし、戦後長きに渡って日本の政治を握っていた歴代の在民党内閣でさえ誰も手を出さずに大切に守り続けてきた憲法9条に入れられたメスは、国内では当然のこと、党内でも波紋を呼んだ。
 数年前に最大野党である主民党に政権を奪われた痛手からか、震災後に政権を取り戻した在民党、しかも病気で無念の退陣に追い込まれた宇部による第二次宇部内閣は、主民党政権の行いが愚かだったと言わんばかりに様々な改革を急ピッチかつ、強力に推し進めた。
 悪税として憚(はばか)られつつも世に定着してきた消費税を強引に引き上げたことを始めとするウベノミックと呼ばれる経済政策。そして震災復興の中では、依然終息しない事故を起こした福島第一原発周辺の交通機関の強引な復旧・開通による住民の健康不安への配慮を欠いた帰還事業の推進。そしてその強引さは憲法9条の解釈変更による集団的自衛権の行使容認により戦後日本の平和への拘(こだわ)りの破壊を実現したのだった。
 国会の場で最大野党・主民党の幹部を度々罵倒し、時には根拠がないのにも関わらず反社会団体との結びつきや政治献金問題を責め立てるというパフォーマンスの効果もあってか、強い与党という印象を国民や他の政党に見せつけることに成功した宇部が訴えた集団的自衛権の必要性は、
「戦場になった国から避難する日本人を乗せたアメリカの艦船が、他国の攻撃を受けた時、近くに自衛隊がいてもアメリカの艦船を守れない。という集団的自衛権を禁じた現在の憲法解釈は国家としての責任を果たしていない。」
というものだった。
 その解釈に呪縛を解かれたような「気づき」を得た人々は、そういう場合は、自衛隊が守るべきだ。と考えるようになった。
 しかし、そのようなことが現実に起こる確率の低さを論じた野党・主民党議員の委員会での質疑には誠意を持って応えず、それを取り上げようとした論調の報道は社会に出ることなく黙殺された。どういう根拠かも知らされずに防衛機密に分類されてしまったからだった。特定秘密保護法が制定された現在、国家権力が本気で政策を推進する際に隠すべきものには、何とでも理由が付けられる。国民に全部を知らしめる必要のない環境での議論の過程で、国連決議に基づくことなく内閣の判断で自衛隊の派遣が出来ることが追加されていた。
 結果として、集団的自衛権行使の先駆けとなったのが、武元ら自衛隊員のカンザバル派遣である。
 自衛隊の海外派遣は国連決議に基づくPKO(平和維持活動)に始まりPKF(平和維持軍)へとその内容を徐々に各国の軍隊へと近づけていったが、武力衝突が予測される危険地域への派遣を避けることにより、自分達を守ることさえ困難に思えるような貧弱な武装でも活動する事ができた。しかし、そもそも平和維持軍が派遣される地域に完全な安全などあり得ない。だからこそ国連加盟国から民間人ではなく軍人が派遣されているのだ。その議論に蓋をしてきた弊害は、復興作業をする自衛隊員の護衛に他国の軍があたっているという現実に直面する。仮に自衛隊を護衛している他国の部隊が攻撃を受けた場合、自衛隊が共に反撃することは集団的自衛権の行使になる。しかし、自衛隊が何もせずに離脱する事態は果たして国際的に責任を果たそうとする国家として正しいことなのか?
 平和を盲信し、武力を悪として、臭い物には蓋をする文化で議論を避けてきた多くの国民とその代表者たる政治家達は、陰ながら準備を重ねてきた在民党が一挙に行動に出たことで理論武装の遅れた野党各党は、宇部政権が憲法解釈変更から「駆けつけ警護」まで一気に法制化するのを食い止めることが出来なかった。
 こうして派遣された日本のカンザバル派遣隊は、航空機による物資輸送を主任務としながらも、使用する航空基地や、宿営地を守るための歩兵部隊、つまり陸上自衛隊で言うところの普通科部隊を展開した。
 海外派遣が始まった頃は、土木・建築を専門とする施設科部隊の派遣に留め、自動小銃数丁の携行でも揉めた装備は、PKOからPKFまで十数年経った今でも軽機関銃までしか運用できなかった。しかし集団的自衛権行使が前提となって初となる今回の派遣で、陸上自衛隊は戦闘職種である普通科部隊を派遣し、携帯火器では一般にはバズーカ砲と呼ばれ、肩に担いで使用する84mm無反動砲まで許可している。
 特筆すべきは、彼らが移動手段として持ち込むことを許されたのが89式装甲戦闘車であり、キャタピラを装着した車体に、戦車のような旋回式の砲塔には35mm機関砲を装備し、さらに日本製対戦車ミサイルである79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置を2つ備える。もちろん戦車や装甲車でお馴染みの74式車載7.62mm機関銃も搭載しており、至れり尽くせりの装備は新型戦車さえ相手にしなければ無敵とも言える。この車両に乗員3名と兵員7名を乗せて最高速度70km/hでありとあらゆる地形を駆け回ることが可能なのだからトラックと機関銃を全て降ろした73式装甲車で移動していたこれまでの派遣とは雲泥の差である。国会ではトラック輸送の警護と説明されていたが、その機動性と武装を前線で活用しない軍隊はいない。まして、この作戦の総合的な指揮を取るのはもちろんアメリカだ。日本の国情を配慮して掃討作戦には使用しないものの、輸送部隊の護衛以外に、各種施設、道路の警備などにも使われている。
 航空部隊としては、カンザバル共和国南部に位置する首都ヘバロビの航空基地に武元ら航空自衛隊のC-130Hハーキュリーズ2機と、陸上自衛隊の汎用ヘリコプターUH-1Jを12機配備している。
「他国とは異なり、戦闘機や攻撃ヘリコプターを持ち込まないのは、人道支援としての支援物資輸送が主任務であると共に平和国家としてのこだわりを世界に知らしめるためである。」
と宇部総理が国会で答弁していたことが記憶に新しい。

「ジェットで最新のC2だったら余裕で登ってくれるんだろうがな。来週は国へ帰れる。頑張れよ。」
 武元が、操縦桿の引き加減を微妙にコントロールしながら愛機を労わるように声を掛ける。
「ですね。でもC2がこの砂だらけの土地に合うのかどうか。。。コイツだから何とか飛べるのかもしれませんよ。息子さん今度、高3ですよね。どっちになるか決めたんですか?」
 シートベルトを緩めて身体を動きやすくした大竹が右に、左に身体を向け、周囲を警戒しながら応えた。口調の割には視線に寸分の油断もない。
「そうだ。3年だ。いちばん微妙な時期に傍にいられることになったから良かったけどな。まだどちらか決めてないらしい。そろそろ警戒区域だな。」
 眼下の砂の海が途切れがちになり前方にサバンナ特有の低い樹木が点在し始まる。携帯式地対空ミサイルを持った過激派が潜んでいる可能性がある。
「了解。フレアチェックOK」
作品名:真・平和立国 作家名:篠塚飛樹