真・平和立国
ラッキーだっただけなんだよ。アメリカとソビエトという二強。お互いに核という刃を交えたら滅亡することが分かっていたから起きなかった戦争。。。冷戦。。。アメリカ側の最前線にいながら何も起きなかったのは何故か?教科書には載っていないけど、ちょっとした本を読めばすぐに分かることだ。だけど、今は違う。冷戦が終わって徐々に崩れてきた均衡。中国がいい例だ。
(鬼に荒らされて放題で本当にいいんだな?鬼に家族が殺されても平気なんだな?)
頭の中で叫んだ時、ヒステリックな声で我に返った。
「鬼退治に行く必要はないだろ!ただの仕返しじゃないか!侵略行為だろ!どうなんだ。しかも動物達まで巻き込んで鬼ヶ島に行く。これこそ集団的自衛権の行使じゃないのか?サルにもキジにも鬼は関係ないじゃないか。日本がアフリカのカンザバルに自衛隊を派遣しているのと同じだろ!」
川村を指差しながら塚本がまくし立てていた。
信浩の腕を振りほどいた川村が立ち上がった。
(やめろ!川村)
何故か声がうまく出せない。
「お父さんの仕事はね。村に鬼が来ないようにすること。「村に入ってきたら痛い目に合いますよー。だから入ってこないでね。」って鬼さんに分かってもらうこと。そうすれば村は安全だよね。だから一生懸命訓練をしてるんだ。それでも鬼が入ってきたら。。。みんなを鬼から守るんだ。それがお父さんの仕事だ。。。」
幼い頃聞いた父の優しい声が一杯に広がったかと思うと目の前が急に眩しくなる。
(砂漠だ。。。)
父を呼ぼうにも声は出ないし、体も動かない。
大きく体を揺さぶられて、金属が擦れ合うような大きな音がした気がした。
レースのカーテンが一度だけ大きくなびいたのが目に映った。外は真っ暗だった。天井の蛍光灯が眩しい。
「何だ、夢か。。。」
そっか、夕飯を食べてからベッドの上に横になってしまったんだ。ちょっと風が冷たくなってきたな。
窓を閉めるために起き上がった信浩は、確かめるように机の上の写真を見詰めた。
父が送ってきた水色のC−130輸送機の写真には、父と仲間が笑顔を向けていた。