「空蝉の恋」 第三十六話
有里とは、高校から大学まで一緒だった。彼女は卒業してしばらくして結婚で東京へ行ったから、会えるとは思わなかった。どうしてここに来たのだろうかと考えていた。
五時を少し回って店長に挨拶して店を出た。
近くのカフェで待っている有里と再会する。
「ここのカフェも久しぶりに入るわ」
「昔あなたとよく来たわね。懐かしい・・・」
「そうね、若かったよね。ねえ、有里は東京へ結婚してから行ったのよね?実家に帰ってきているの」
「いろいろとあってね、名古屋の人と再婚したの」
「ええ?ほんとうなの!」
「本当よ。まだ娘が小さかったから、再婚を決めた。幸い今の夫とも仲良くしてくれているから安心だわ」
「よく決心したわね。なぜ離婚したの?」
「あなたこそ何故離婚したのか聞きたいわ。まさか浮気したなんてこと言わないわよね?」
「まさか・・・でも主人からは、浮気を疑われて、離婚するって言われた。東京へ転勤してから疑うようになったみたい」
「へえ~そんなことだったの。私は娘を妊娠中に浮気された。知らないふりして我慢していたけど、その後も続けていた様子だったので、名古屋の実家へ戻ってきて協議離婚したの。男って妻の妊娠中ぐらい我慢できないものなのかって呆れるわ」
「そう、浮気されたの。私も夫から疑われたけど、結局自分が浮気しててね、その彼女と一緒になりたい理由から離婚を突き付けられたっていう感じだったのよ」
「浮気なんかしてなかったのでしょ?どうしてそうなるのか解らないんだけど」
「実はね、男友達を含めて四人でお泊り旅行したのよ。もちろん部屋は別々の約束でね。私お酒が好きでしょ、それで飲み過ぎたのか一緒に行った男性に言い寄られて、断ったんだけど涼みに出た庭で無理やりキスされて・・・それを露天風呂から見ていた主人の知り合いに告げ口されてバレたの」
「すごいことするのね、佳恵って・・・信じられない。それにしても、そんなところで見られた、だなんてすごい運が悪かったね」
「そうなのよ。主人が浮気したこと知っているぞ!って言った時、何を言っているのこの人は、って言い返したんだけど、確信がある言い方になったから、知っていると感じたの。聞いたら前の会社にいた部下が家族連れで来ていた宿と一緒だったのよ。悪いことは出来ないってことなのかな~」
「悪いことって思っていたのね。夫に内緒だったからいけなかったのよ。友達とだったら堂々と話して出掛けるべきだったのよ。まあ、でもキスはまずいよ佳恵」
有里に言われたことはもっともだと思った。今度は有里の話を聞く番だ。
作品名:「空蝉の恋」 第三十六話 作家名:てっしゅう