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Scat Back 第二部

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12.決戦



 S大のキックオフで試合開始。
 俺はリターナーの位置に入った。

 リターナーはスピードに乗った状態でヒットを受けることも多く、エース・ランニングバックの俺はそれまではリターナーは務めていなかった。
 しかし、この試合は最後の最後、4年間の集大成にするべき試合だ、そんな事を言っていられないし、言うつもりもない。
 むしろ、ハードヒットを怖がっていたことを知っている首脳陣が、俺をリターナーに指名してくれたことに感謝しながら、俺はキックオフのボールを待った。

 キックオフ!
 自陣10ヤード地点でボールをキャッチした俺は、迷わずに山本のいる左サイドを目指した。
 俺の前で田中を中心に3人が楔を作って俺を守ってくれる。
 その3人が次々に敵をブロックしてくれて、スピードに乗った俺は山本の外側を走り抜けた。
 2部リーグならこのままタッチダウンまで走り切れそうだったが、さすがに1部のチームは甘くない、ブロックを外して迫ってきた敵に囲まれてしまい、軽量の俺はなすすべもなくサイドラインから弾き出されてしまった。
 それでも50ヤード地点までリターンすることが出来た、通常は自陣30ヤード地点まで返せればナイスリターン、幸先の良いスタートだ。

 監督から指示された最初のプレーはロングパスだ。
 敵も当然こちらのエースクォーターバックの負傷欠場は知っている、ランで来るに違いないと読んでいるであろう事はこちらも承知の上だ。
 ただし、クォーターバックの安岡には『少しでも危ないと思ったらサイドに投げ出せ』(*1)と指示してある、こういった重要な試合では何より怖いのがインターセプト、ファンブル(*2)などのターンオーバーでピンチを招くことなのだ。
 安岡はこれまで試合にあまり出ていない、敵にも彼の情報は乏しいはずだ、安岡にもロングパスがあるぞ、と見せかけることはできるはず、パスも警戒してくれないことにはこちらの攻撃は手詰まりになる。
 
 そのフェイクが功を奏してか、敵のセイフティ(*3)のポジションが少し下がった、ここは俺の出番だ、次のプレーは俺のオープンへのラン、一気に15ヤード進み、ファーストダウン更新、敵陣35ヤード。
 そのプレーを受けて、セイフティは上がり気味のポジションを取るが、サイドへのランを警戒して開き気味、次のプレーで栗田、田辺の両ワイドレシーバーがエンドゾーンめがけて全力で走ってコーナーバックをひきつけると、真ん中がぽっかり開いた。
 そこへタイトエンド、倉田へのショートパス、開き気味だったセイフティがようやく追いついた時、倉田はゴール前3ヤードまで進んでいた。
 そして、最後は田中が押し込んで7-0と先制。
 順調すぎるほどの滑り出しに、ブレイブ・ブラザースのサイドラインは意気が上がる。
 
 しかし、やはり敵もさるもの、1部リーグでもまれてきたオフェンスラインは強力で、ブレイブ・ブラザースのディフェンスラインは押され気味、シンプルなラン攻撃が中心ながらも、じわじわと確実に進まれ、第1クォーター終盤にタッチダウンを返されてしまった。
 そして第2クォーター、どうやら敵も安岡のロングパスは投げ捨てであることに気づいたようだ。
 最後尾を守るセイフティは2人、そのうち1人は最後の砦となるフリーセイフティ、もう1人はストロングセイフティと呼ばれ、遊軍的な役割も担う。
 ロングパスは決まらないと読んだ敵は、ストロングセイフティを思い切り前に上げて俺のオープンへのランに備えて来た、セイフティにはスピードのある選手が充てられる、そうなると2部でならともかく、1部のチーム相手では俺のオープンへのランは封じられてしまう。

 しかし、気づかれるのは予想よりも早かったものの、想定内の事ではある、ブレイブ・ブラザースは次なる作戦も用意している。
 偽リードオプションがそれだ。
 2年後のチーム作りを見据えて安岡はリードオプションの練習に取り組んではいるが、まだ実戦に使うのは時期尚早、その上、俺と田中はその練習はしていない、しかし、ランニングバックにボールを渡すか、自分で走るかをあらかじめ決めてあれば、判断ミスからの失敗は防げるし、リードオプションに見せかけること充分に可能だ、しかもこちらにはスピードとクイックネスの俺、パワーの田中とタイプの異なる二人のランニングバックがいる、そこにその中間タイプの安岡のランが加われば、地道に前進できるはず。
 この作戦もまずまず当たり、俺たちはタッチダウンを奪うまでは至らなかったが、フィールドゴールの3点を追加することが出来た。
 しかし、敵の正攻法の攻撃は依然として止めきれない、前半終了間際にフィールドゴールを許して、10-10の同点でハーフタイムを迎えた。
 

 ロースコアの展開は望むところだ。
 しかし、こちらは策を弄しての10点、敵は正攻法で押しての10点だ。
 正直なところ、1タッチダウン・7点のリードがあって互角と言って良い位だ。
 監督やコーチ陣も後半へ向けて、作戦の修正に追われている。

「あれ? 梢は?」
 タイトエンドの倉田が、1年生トレーナーの梢の不在に気づいた。
「梢なら由佳さんを迎えに行ってます」
 3年生の優子が答える。
「由佳の? おいおい、大丈夫なのかよ」
「試合が始まる直前に由佳さんから電話があって、お医者さんに許可をもらえたから、これからタクシーに乗るって……で、今、駐車場まで梢が迎えに行ってるんです、車椅子を押さなきゃいけないし……あ、着いたみたいですね」
 優子の指差した先のスタンドの最前列には、車椅子に乗り、梢に押してもらってはいるが、由佳の姿が……。
 俺はすぐにでも駆け寄りたかったが、監督に集合を掛けられて留まらざるを得なかった。
 いや……今は駆け寄るよりも、ブレイブ・ブラザーズの勝利を見せてやる方が優先だ。
 俺は監督の指示に耳を傾けた。


 後半はブレイブ・ブラザースのキックオフ。
 栗田が素晴らしいカットでブロックをかわし、トップスピードのままリターナーの足元に飛び込んでリターンを封じた。
 敵陣10ヤードからの守備、ディフェンスチームも奮闘してスリー&アウトに追い込んだ。
 こちらもストロングセイフティをぐっと上げてラン攻撃に備えたのが功を奏したのだ。
 しかし、こちらの攻撃も進まない、偽リードオプションも見破られたようだ。
 両チームとも手詰まりの状態で第3クォーターは両者得点なしの膠着状態が続いた。


 第4クォーターに入ると、敵は少し戦術を変えて来た。
 こちらもストロングセイフティを上げたことによって手薄になったディフェンスバックを衝くミドルパスを多用し始めたのだ、その対応に苦慮したディフェンスチームはじわじわと追い込まれ、あと5ヤードでタッチダウン、と言う所まで追い込まれてしまう。
 しかし、フットボールでは敵陣20ヤードからの攻撃が難しい、ディフェンスは守るべきエリアが徐々に狭くなるからだ。
 フィールドゴールによる3点は奪われたものの、ディフェンスチームは10-13と、1タッチダウンで逆転可能な差に踏みとどまってくれている。
 しかし、こちらの攻撃も依然として進まない。
作品名:Scat Back 第二部 作家名:ST