「空蝉の恋」 第三十五話
「ねえ、ママ。パパってちょっと変わったって感じなかった?」
「そうね、誰か好きな人でも出来たのかしら」
「ママもそう思うの?私も同じように感じたの。ひょっとして東京に転勤してすぐに出来たんじゃないのかって思っちゃう。離婚の話も急だったしね。だとしたら酷いよね、パパは」
「今だから言うけど、私たちは長くお互いに違う方向を向いていたから、春樹さんがたとえ浮気をしていても気になんかならなかったの。むしろ私を束縛しなくなって嬉しかったのよ」
「ええ?そうだったの。だから、ママは和仁さんたちと旅行に行ったというわけ?」
「それもあるけど、和仁さんとは何にもないのよ。恵美子さんに誘われて断れなかったから行ったの。それなりに楽しかったけど、和仁さんには誤解させるような態度だったことは反省しているわ」
「じゃあ、もう会わないの?」
「そうね、この間恵美子さんにもそう伝えたの」
「じゃあ、斎藤さんとのことは前向きになれるのよね?」
「あなたまでそんなことを言って・・・今はいいけど、斎藤さんが50の時には、65歳になるのよ。優華ちゃんが結婚する時ぐらいだって、60を過ぎているかも知れないし。そんな不釣り合いな再婚は考えられないの」
「ママは、嘘を言っている」
「ええ?どうしてそう思うの?」
「和仁さんだって全く関心が無かったという人じゃなかったでしょ?パパとのことが無ければ、離婚してなければ仲良くなっていたかも知れないじゃないの。違う?」
「洋子・・・それは違うって」
「違わないよ。私ね、ママを見ていてそう感じるの。この頃綺麗になったし、色気だって出てきた。心に好きな人がいるか、恋心を感じたいと願っているかだと思うの。年齢なんかママにとってはそれほど気にならないんじゃないの?本当のところでは」
洋子は鋭く私の心の中を覗くようになっていた。
内川との男女関係が娘の感性を上げていたのだろう。
これ以上話していると言わなくてもいいことを言ってしまいそうだったので、洋子に部屋に戻るように勧めた。
「内川さんが淋しくしているわよ。もう戻ったら?」
「また逃げる、ママの悪い癖よ」
「心配してくれているのは嬉しいよ。あなたは自分のことと優華ちゃんのことを考えていればいいの。私はしばらく仕事のことも考えないといけないし、斎藤さんとはこれからゆっくりと考えるから」
優華は洋子と入れ替わって私の部屋に来た。
少し話をして眠りについた。
作品名:「空蝉の恋」 第三十五話 作家名:てっしゅう