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遅くない、スタートライン第3部 第4話 10/3更新

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(5)

俺は翌日からご機嫌度が態度と顔に現れた。テレビ局のスタッフやファクトリーマシャのスタッフにすぐ突っ込まれて、兄貴や准達にもバレたけどな。

昨日…おなかのモアちゃんが初の胎動を打った。またそれを機会に、動く動く!朝起きてきたあっくんに聞かせてやったら、すんごく驚いていた。その日からまたあっくんが美裕のおなかのモアちゃんにベッタリになった。俺もしたかったが、あっくんが先なんだ。パパだから我慢しなさいって美裕に言われたけど。

こんなこともあった。カフェにピアノも置いてたけど、もうこのピアノが古くて調律も難しくなってきたそうだ。千尋さんが幼稚園に入園した時からの年代物だ。インテリアとして飾っておくか、買いなおすか…千尋さんも美裕も迷ったが…

ちょうど雅樹兄貴がカフェに来ていて、樹家の年代物のピアノのメーカーを見てこういった。
「あぁ…これなら俺知ってるぞ。春花が神戸の実家のグランドピアノと同じメーカーだ」
「そうなんですか。でもこのタイプはもうないでしょ?」と千尋さんが言った。
「ちょっと待ってみて。春花に電話してみるかい(から)」雅樹兄貴がスマホを耳につけた。

春花さんが、MIZUHOグループの楽器店に問い合わせてくれて、同じタイプのピアノがリニューアルとして売り出されていた。また、樹家のグランドピアノの製造番号をメーカーの担当に言ったら、すんごく驚いて現物を見たいから直接カフェに行っていいかと言われたそうだ。

「あぁ…その人が明日来るん?」俺は食器を洗いながら、美裕に言った。
美裕はソファで縫物をしていた。
「うん。千尋さんが幼稚園の時だから…軽く40年経ってるでしょ?グランドピアノでしょ…当時一般の家庭では買えなかったし、買えたとしてもお金持ちの家だよね。うちのお父さん…どういう経由で手に入れたのか、あの千尋さんも知らないのよぉ」
「へぇ…でもちゃんとお金出して買ったんだろう?」
「だと思うけど、そのメーカーの担当者は初期販売で10台しか販売しなかったので、そのうち8台はもう動かなくって、メーカーで引き取ったんだって。今年に入ってもう1台ダメになって、うちのピアノが最後なんだって」
「ッゲ…じゃあのミンちゃん(樹家命名 グランドピアノにミントちゃんと名前がついてた)すんごい希少価値なグランドピアノさんじゃないか」
「うん。明日の話でどーなるやらねぇ。カフェにピアノの姿がなくなるのは寂しいしな。マサ君だってボイストレーニングにつかうもんね」
「ないと…困るな」俺はそこまで考えてなかったから、美裕に言われて改めて驚いた。

俺は次の日は、作家仕事で養成上級スクールに来ていた。
新人作家達の書く作品の進行具合と打ち合わせに来ていた。もちろん、美裕の妊娠の事も学校長には報告している。
「そっかぁ…妊娠後期になるとおなか出てくるもんな。デスク仕事キツくなるかぁ。で、福永さんの提案受けることにしたんだ。うちとしてはこの前のエッセイ本が売れてるし、また追加増版なったからね。うん、新人作家・mihiroちゃんは出産するまでは【休職】でいきますかな。で、あなたは?」

あぁ…俺かぁ。( 一一)
「俺も今手掛けているスイーツロード2部の構成と医療ドラマは来年の秋だからまだ時間あるし、あぁ高茂久院長先生が病院の方に見学においでって行ってくれてるんで、取材かねていいですかね?それが来年1月からで、2月からドームツアーに入るんで、その間2ヶ月作家業お休みさせてください」

「おまえも忙しいな。産み月は仕事スケジュール入れてないらしいじゃないか。それで今詰め込んでるの?来週から桑さん達と仕事だろうが」
「なんですよね…あぁ胃いてぇ!!今から!!この前の収録もオンエアするし、そろそろ美裕のご機嫌取っておかんと!あぁ…あっくんのご機嫌も取らんと!片落ちいけませんのよぉ」と俺はボヤいた。
学校長達は、俺の言い草に呆れていたようだ。毎度の事だと思うんだが…

その時だった。俺のスマホの画面が明るくなった。美裕からだ…なんだ?
「いいよぉ…出な!」学校長は美裕だと思ったみたいで、許可くれた。

美裕からのラインは…これ…なに?

(@_@。(@_@。( ;∀;)
美裕お願いだ…日本語で書いてくれ!!俺わからん!!

「電話した方がいいんじゃない?その様子はパニってるから文字打てないんじゃない?」
横から愛姉が俺のスマホを覗いて言った。

俺は思わず胸に手を置いた。いやぁな予感がする。

「美裕ぉ!俺!どーしたん?なんやこの顔文字は!読解できんわ」
「ま…マサ君!ミンちゃんがぁ…」声が上ずっている。なんかあったか?

「どないしてん?ミンちゃん今…メーカーさん来てるんちゃうんかぁ?」
学校長達は「?」の顔しているので、俺は横のメモにミンちゃん=ピアノの名前と書いてやった。

「エェ!!マジかぁ?そ、そんな希少価値なん?美裕ぉ…おまえ大丈夫か?千尋さんも」
「ち、千尋さん…口パクパク状態で、ゆ、雄介義兄さんが話してる。マサ君…もう終わった?帰ってきてぇ」
美裕の悲壮な声に、学校長達は俺に【うんうん】うなづいた。

「すんません!!俺帰りますわ。カフェに置いてあるグランドピアノがエライことになってるんで」
俺は頭を下げて、ダッシュでパーキングに向かった。

俺がカフェに行ったら、メーカーの人は諒君が焼いたケーキを美味しそうに食べていた。諒君に紹介をしてもらった。樹家メンバーはどうしたんだ?諒君は俺に目線を送った。諒君の目線はテラス席を見ていた。

「どーしよ…」
「そんなグランドピアノなんて、知らなかった」
「千尋ぉ…聞いてなかったのか?亡くなったお父さんから」
3人の話声が聞こえた。

「マジなん?電話での話」俺はテラス席のドアを開けた。俺の姿をみた美裕は…

「ま、マサ君!マジやねん!!」
「み、美裕ぉ…興奮したらダメだ」雄介義兄さんが美裕をとめた。いつもなら千尋さんなのに。
その千尋さんは、目が1点になっていた。俺…こんな千尋さん見た事ないんやけど?

「うん。あのミンちゃん…メーカーにとっても希少価値でな。メーカーの初代ピアノ技師が精魂こめた作品らしい。その初代ピアノ技師が最後に作ったのはミンちゃんだって。型番と製造後番号が一致してさ!メーカー側としては樹家からぜひとも譲り受けたいらしい。無料でとは言わないって!この姉妹にとっては亡きお父さんが買ってくれた大事なグランドピアノだ。メーカー側は同じタイプで中は最新設備を入れて、ここのカフェにグランドピアノを寄贈したいって言ってるんだ。マサ君…どう思う?」

「うーん…選択が難しいわ。千尋さん…話できますかぁ?美裕落ち着いたか?」
千尋さんは顔を上げた。美裕は雄介義兄さんがホットミルクを飲ませてくれて、少し落ち着いたようだ。

マサ君がピアノのメーカーの人と話をしてくれた。さすが…作家先生だ!いや…マサ君がピアノメーカーが考えていない提案を持ち出し、早速上司に相談してみると飛んで帰った。

「実際にできるん?マサ君」
私は諒君が焼いたアップルパイを美味しそうにほおばっている、マサ君に聞いた。