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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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pleased smile

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 ーーそういえばよく、お姉ちゃんはわたしに言っていた。美音は可愛いねと。小さい頃はただ素直に聞いていたけど、いつの頃からか、言い方に違いがあることにうっすら気づきだした。いつだって本気で言ってくれていたのは違いないけど、何か、言わずにいる言葉が残っているような時があったのだ。口にしそうになるけど言うべきじゃない、そんな、「苦さ」が混じった言葉を。
 だてに妹をやってはいない。お姉ちゃんの隠し事がある時の表情くらい、小学生になる頃にはわかるようになった。だから、そういう表情で言われた時には必ず言い返した。お姉ちゃんだって可愛いよ、と。
 そう、お姉ちゃんは本当に可愛い。テレビに出るような美人とは違うけど。愛想笑いじゃなくてほんとに笑った時は、そのへんの美人よりずっと可愛く見える。お姉ちゃん自身が「そんなことない」って否定しても、本当に可愛いんだからそんなことなくはない。妹の欲目なんかじゃなくて。
 ママが心配していたのは当たり前のことなんだ。お姉ちゃんは自分に自信がなさすぎる。そういう気持ちが外に出ちゃうのかもしれないけど、大人の多くも見る目がなさすぎる。
 でも、お姉ちゃんのカレシには見る目がちゃんとあったんだ。
 『……よかったね、友美』
 お姉ちゃんが、カレシを連れて行くから会ってほしい、と電話してきた日。ママの涙ぐむ声が、大きくはないのにすごくはっきり聞こえて、印象的だった。今でもカンペキに脳内再生できる。
 大学が夏休みとかで帰ってきている時に、何度もお姉ちゃんを迎えに来ていた人。超カッコイイ、それでいて真面目そうな人。お茶くらいどうですか、と声をかけても今まで一度も玄関から上にあがったことのない、お姉ちゃんのカレシ。
 その人が今日ここから家に上がって、家の奥に入る。お姉ちゃんははっきり言わなかったみたいだけど、その意味はやっぱり「イコール結婚」という気がするから、わくわくしてくる。
 あんな、芸能人レベルでカッコイイ人が家族になるなんて、それだけでも友達に自慢できるしーーもちろん一番大事なことはそれじゃなくて、ああいう人が自分の目でちゃんと見てお姉ちゃんを選んで、結婚しよう(たぶん)と思ってくれたのがすごい。ママの喜びには負けるだろうけど、わたしだってすごく嬉しく思っている。
 真面目で、それに優しそうな人だ。玄関で顔を合わせるたび、すごく素敵な笑顔で挨拶してくれた。きっとお姉ちゃんに負けないくらい、お願いはたいてい聞いてくれる人だと思う。おじゃまかもしれないけど一度三人で一緒に遊びに行きたいです、って言ってみよう。
 その前にとりあえず、もうすぐ、どうやってお出迎えするか。どうせならちょっと驚かせたい……
 考えていたら、チャイムが鳴った。考え事しながら掃除していたからけっこう時間が過ぎちゃっていたみたいだ。ママがインターホン越しに「ちょっと待ってね」と言うのが聞こえる。美音ドア開けて、という声が届くのと同時に、ドアの鍵を回した。
 開けた先には、照れくさそうにちょっと顔を赤くしているお姉ちゃんと、スーツを着て少し緊張しているっぽいーー
 あ、そうだ、と思った時には声に出ていた。
 「おかえりお姉ちゃん。こんにちは、おにいさん」
 二人ともが同じタイミングで目を丸くした。
 「もう、美音ってば」と、お姉ちゃんは顔をもっと赤くして慌てた感じで言う。カレシの方、お兄さんになる人は、びっくり顔を引っ込めてから少しだけ赤くなった。それから、にっこりと笑いかけてくれる。
 本当に、お姉ちゃんがうらやましくなっちゃうぐらいにカッコイイ、すてきな笑顔だ。でもだからこそ、お姉ちゃんが照れながらも一緒に、幸せそうに笑っているのが嬉しいと、心の底から思った。


                             - 終 -
作品名:pleased smile 作家名:まつやちかこ