小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

pleased smile

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
『嬉しい日 - pleased smile - 』


 「何してるの、早くそれ片づけて。お皿くらい自分で洗いなさい、忙しいんだから」
 「はーい」
 昨日から「忙しい」が口癖で、何事にもチェックが厳しいママ。理由があるから仕方ないと言えばそうだけど、あんまりしょっちゅう言われると反発したい気持ちもわいてくる。
 「ねえママ。お姉ちゃんのカレシってさあ、何回かうちに来たことある超カッコイイ人だよね? いいなあお姉ちゃん。公務員で浮気しなさそうなダンナなんて、カンペキ勝ち組じゃん、ねえ」
 「そういう言い方しないの、美音(みお)。お行儀の悪い」
 予想通り、ママは顔をしかめる。
 「……素直に喜んであげて。お姉ちゃんがいい人に出会えた、ってこと」
 こんなふうに言うのも、予想の通り。わたしの軽口に怒るけどそれだけじゃない、真剣な思いがこもった言い方ーー昨日から、いや、もっとずっと前から何度も聞かされてきた。
 わたしより13歳も上の、友美(ゆみ)お姉ちゃん。もうひとりお母さんがいるみたいなもんだね、と小さい時からよく言われる。実際、たくさん面倒は見てもらったと思う。妹がすごく年下というのは注目されるみたいで、幼稚園くらいまでは、お姉ちゃんの友達にもしょっちゅう遊んでもらった覚えがある。
 だけどお姉ちゃん個人は、プライベートで目立つことはほとんどしない。わたしがたいていの場合はぐいぐい前へ出ちゃうのとは真逆で、普段は後ろの方に引いている、そんな人だ。
 『美音ちゃんは積極的だね、小さいのに』
 『将来が楽しみでしょ。美人になりそうだし』
 『比べたら友美ちゃんは、ちょっと……おとなしすぎるのかな』
 『無口も、過ぎると可愛げがないからね。もっと話すようにしないと』
 親戚や知り合いの大人がそういうふうに言ってくる時、お姉ちゃんは決まって、黙って笑っていた。昔はそれが「愛想笑い」だとは知らなくて、「ほんとにどうして、外ではなんにも言わないんだろう」と不思議に思っていた。大人たちとお姉ちゃんの様子に、何かもやもやした気持ちを感じることもあった。
 家ではちゃんと話をするし、ママよりは甘いとはいえ、厳しい時は厳しい。だけどお願いした時は、忙しかったとしても嫌な顔はしないで必ずかまってくれる。わざと、わがままなタイミングで言っているとわかるような時でもたいてい、遊んだり宿題を見てくれたりする。お姉ちゃんは、すごく優しい。
 だからきっと、わたしばかりが目立っていても、何も言わなかった。大人がみんな私に注目してもしかたない、そう口には出さないけど心の中では言っているみたいな、ちょっと不自然な笑顔を浮かべながら。
 お姉ちゃんはそういうところが「不器用」なんだとは、小さい頃は考えなかったし、そもそもそんなことはわからなかった。わたしのもやもやした気持ちが「苛立ち」と言える感情なのも知らなかった。ただずっと思ってはいた。もっともっと言いたいことを言えばいいのに、言えるはずなのにと。
 「あ、片づけたの? なら、玄関掃除しておいて。丁寧にね」
 わたしの行動を見逃さないママの言葉に、玄関なら昨日掃除してたじゃん、と言いそうになったけどやめておく。素直に返事をして、お客様が来る時間と時計を確認してから、玄関に行く。下駄箱の横に立ててあるホウキを持って、ちり取りを隅の方に置いて、掃除を始める。
 ……お姉ちゃんが「不器用」なのを一番よく知っていたのは、ママだと思う。何を言われても人前では、お姉ちゃんよりずっと自然な感じで笑っていたけど、家の中でお姉ちゃんと話す様子とか、時々見せる表情とかで、すごく心配していることはわかった。たまたま聞いた話の中で、今でもよく覚えている言葉がある。
 『友美、あなたはあなたなの。美音とは違うのよ』
 その頃はたぶん幼稚園くらいの年だったから、聞いても「?」と思うだけだった。今でも本音を言うと、よくはわからない。お姉ちゃんが、自分をわたしを比べて何か「ひけめ」とかを感じることがあるらしい、なんてことは。
 ぜんぜん意味がわからない。
 そりゃあ、わたしの方が「積極的」なのかもしれない。でもそれはわたしが、やりたいことはすぐにやるのが好きだからで、人によると思う。
 お姉ちゃんは、そういう人じゃないというだけ。優しいってこと以外にも、積極的とは言えなくても何でも一生懸命にやるとか、自分からしょっちゅうママの手伝いをするとか、良いところいっぱい持っている。お手伝いなんか、ママに言われてもやったりやらなかったりするわたしから見れば、ものすごく偉いと思っちゃうことなのに。
 目立たないことは見えにくいから、誉めてもらえることも少ないらしい。そういうものなのかもしれなくても、そんなのはやっぱり変だ。

作品名:pleased smile 作家名:まつやちかこ