バス停にて
そこのあなた、そうあなたですよ。
お母さんはいつまでも元気だと思っていませんか?
私の母の他界は、あまりに突然で本当に驚きました。少し前には、還暦の同期会に出るほど元気だったんですよ。昔の仲間に囲まれ、それは楽しかった、とうれしそうに帰ってきたのに……
お葬式にはその時のお友だちがたくさん来てくれましたから、母はさぞ喜んだことでしょうけどね。
母は生前、口癖のように、いつのまにか歳をとってしまうものだと言っていましたよ。まわりからあんたはまだ若いと言われているうちに自分は歳をとってしまったから、お前はそうならないように、とね。でも、いくらそんなことを言われても、まだ若かった私にはピンとこなかったんですよね。
でも、あの頃の母の歳になって、ようやくわかったんですよ。
歳をとることの空しさ、残酷さをね。そして、誰彼かまわず捕まえて、胸の内を話したくなる気持ちもね。
私ね、六十で逝った母は幸せだったと、最近になって思えるようになったんですよ。友人を誰ひとり見送ることなく、自分はたくさんの人に惜しまれて旅立てたんですからね。
あら、バスが来たわ。私ったら、見ず知らずのあなたにこんな話をして、ごめんなさいね。今日は母の命日なものだから、許してね。
それじゃ、お嬢さんもお母さんを大切にね。