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バス停にて

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 そこの君、そう君だよ。
 自分はまだ若い、自分だけは年を取らない、そう思っていないかい?

 それが違うんだな。歳なんてとってみるとあっという間だぜ。あんなしおらしかった女房だって、今やすっかり貫禄がついて、家の真ん中にでーんとかまえてやがるしな。
 
 そうそう、そう言えばこの前、還暦の同期会ってやつに出てきたんだけど、凄かったねえ、みんなじいさんになっちゃってよ。本当に同級生かよ! って奴ばかりだったよ。
 俺? 俺はこの通りまだまだ現役よ。だから堂々とああいうところにだって出られるのさ。え? みんなもそう思って出てきているんじゃないか? って。そうだな、自分のことって気がつかないんだろうな。

 でも、女はすげえな、化け物だよ。美魔女とかいうけどよ、ホント驚いたね。昔より垢抜けていい女になったヤツまでいたんだぜ。まあ、金と暇があるということだから、結構なことだがな。うちの女房には、あんな場所へは行かせられないと思ったよ。張り合って、エステ通いでも始められた日にはたまったもんじゃないからな。
 

   * * * * * * * *
 

 あら、やっと来たわね。ここのバスはいつも時間通りに来ないんだから困ったものね。おかげで、ついおしゃべりが長くなってしまったわ。
 それじゃ、おねえさん、自然に鏡を見られなくなる日がやがて来るのだから、今を大切にね。
 
 
 向かいのバス停でも……
 
 
 お、やっと来たな。相変わらず待たせやがるな。俺には、残りの時間が少ないんだから待たせるなってな。
 にいさんも、時間を大切にしろよ。俺の同級生たちみたいになるなよ。
 
 
作品名:バス停にて 作家名:鏡湖