新・覇王伝__蒼剣の舞い2【第1話】
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漸く興奮が鎮まりかけて、拓海は外へ出ようと扉を押した。
それは、扉が開くのと同時。
「そこから動くんじゃねぇっ!」
ドスの聞いた声に、拓海は躯を咄嗟に引いた。
耳元を掠めるものよりも、遙かにその声音は怖い。
何が起こったのか、何故怒鳴られねばならなかったのか。
拓海のすぐ耳元で、壁にしっかり食い込んでいた矢が物語るもの。
「___清雅さま…?」
拓海の前に立ち塞がる広い背中も、その乱暴な声も“彼”のものだ。
「人の敷地で狩りとは、いい度胸だぜ」
「狩りって…、ちょっと…」
「理解らねぇか?狙われたんだよ」
厳しい視線を前に向けたまま、清雅は薄笑いを浮かべている。
この口の悪ささえ除けば、四獣聖の蒼龍で、蒼王でもある納得できるんだが。
拓海は、緊迫した場面にいながらもそう思っている。恐怖が引いていくのを感じながら、その安心感を与えているののは清雅だ。
何故七年前、蒼国の人々が彼を主としたのか、拓海は何となく理解るような気がした。
いや、待て。
「何で、僕まで狙われるんですかぁ…!?」
「来るぜ」
__人の話、聞いてないし…。
飛んでくる矢を交わす剣の金属音と、数人が同時に動く足音。
「ちょっと、清雅さまっ」
「お前、剣どれくらいできる?」
「…実戦経験はゼロです…」
「なら__」
「はい?」
ずっしりとした重みに、拓海の思考回路は再び迷走する。
彼の手には、剣が一降り。ようは、これで戦えと云う事だ。
実戦経験ゼロだと、いうのにであるにある。父・狼靖を振り返ったが彼は彼で刺客相手に奮戦中である。
「お前、まさか守ってもらおうなんて考えちゃいないだろうな?もし思ってんなら、とっとと国に帰る事だ。だが、奴らはしつこいぜ。ここまで追ってくるくらいだ。お前はそこで、奴らに怯えながら暮らす事になる」
「僕は、そんな弱虫じゃありませんっ」
何のために、父についてきたのか___。
四獣聖に憧れ、その四獣聖になる為に。
「上等だ、玄武の息子」
清雅は、また一人倒して嗤った。
作品名:新・覇王伝__蒼剣の舞い2【第1話】 作家名:斑鳩青藍