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鏡台

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「まあ高山君、そう怖い顔しないで」
「すっかりやられましたよ」
 と直哉。
「直哉君にはだいぶ手伝ってもらったから、バレるかなあと内心、焦ってたよ、おれはほら、小心者だからさ」
「小心者がクロロホルムまで使いますか! 用意周到じゃないですか! 私、本当に怖かったんですから……」
 とミキさんは言った。怒り心頭といった感じだ。
 僕とミキさんは、バンに乗せられた後、気がついたら、事務所に来ていたのだ。
 ミキさんをつけていたのは、他でもない松田さんだった。あの車を運転してたのも。今日この日のために帰り道を確認すべく、尾行していた。
 そして……
「まさか直哉までグルだったとはな」
 僕は、弟を見て行った。
「兄さんが最初に松田さんを手伝えって言ったんじゃないですか」
 と直哉。
「お前ん家のほうが近いからいいじゃねえか。この近所だろ」
「まあ……、兄さんはここからは遠いですからね。僕もそう思ったから承諾しましたが……でもまさかこれほどとは思いませんでしたよ。ほとんど犯罪ですよ、ストーカーとか拉致とか」
「拉致っていえば、お前ちょっと力強すぎだよ……、いてて」
「兄さんが弱すぎなんですよ……ヘタレだし」
「ヘタレって何だよ」

「ちょ、ちょっと、兄弟喧嘩やめ!まあ、どのみち三人はおれに騙される運命にあったってことだよ」

 それにしても、とミキさんは呟いた。
「高山君とこちらの直哉君は……あ、どうもはじめまして」
「はい、はじめまして」
「二人は兄弟なんですか」
 騙されやすいことも似ているが、服装や髪型さえ揃えたら、全く同じだった。

「双子なんだ」
 なぜか松田さんが答えた。

「しかし兄さんと違って僕は乱暴な口のききかたをしません」
「乱暴にもなるだろ。騙されたんだぜ……、途中まで計画を聞いてたとはいえ」
 僕がまず松田さんから話を聞いた。それから直哉に伝えた。その後、事務所で三人で話し合った。
 僕がミキさんを送る、そして直哉は他の手伝いをする、そういう段取りだった。
 その計画を聞いた日、直哉を残して僕だけ先に帰ったのだ。
 拉致計画したのは、あの時か、と思い至った。
「まあまあまあ。おれの顔に免じて、ここはひとつ」
 お前のせいじゃないか。
「それであの、この部屋は模様替えしたんですか? この派手な飾り付けは一体……? それから……、こないだまでと家具の配置が逆……まるで」
 ミキさんがそこまで言った時、僕は、はっ、として、
「鏡に映したみたいだ」
 と言葉を継いだ。
「そうか、そういうことですか」
 直哉は得心したようだ。
 すると、玄関から向かって左側にある本棚をどけた。
 引き戸があらわれ、それを引くと、もうひとつ、部屋があらわれた。

 あの、いつもの事務所だ。
 この部屋は、いつもの事務所の、隣の部屋だった。

「だから僕が松田さんと部屋を出た時と全く違うんですね。あの時すでに、こちら側の部屋は用意し終えていた。僕が松田さんと二人でいたのは、あちら側、つまりいつもの事務所だった。そして二人を拉致するため僕と松田さんは車で尾行した。二人を車に乗せて、ここへ着いた時、二人はまだ意識朦朧としていた。二人を連れてくるのにやっとだった僕は、玄関の扉を松田さんに開けてもらった。僕らは松田さんに導かれるまま、こちらの部屋の扉から入った……」
 直哉はそこまで一息に言うと、はあ、とため息をついた。
 どこまでこの人は暇なんだ。そう言いたそうだ。

 そんなことは意に介さず松田さんは、
「ねえね、ここを挟んでさ、二人立ってみてよ」
 と言って僕と直哉とを引っ張って、部屋と部屋の向こうとこっちに立たせた。
「鏡みたい……といっても今は、ちょっと違うけど」
 松田さんは少し残念そうだ。きっとまたいつか、やらせる気だろう。
 向こう側に立っている直哉と、こちら側に立っている僕とで、顔を見合わせた。
 確かに、顔だけみれば、鏡を見ているようだ、と、妙な感慨に耽ってたが、ふと気になったことがあった。
「そういえば僕が立ってるこっち側の部屋は、ずいぶん派手に飾ってあるんだけどさ……何これ?」

「まだ気がつかないんですか」
「え? クリスマスじゃねえよな……」

 僕が言うと、直哉は見下したように見返してきた。
 仮にも兄だぞ数秒だけど、と言おうとしたが、はた、と思い留まった。
 松田さんが、にやにやしながら、口を開いた。


「高山兄弟とミキさん」
 いったん言葉を切った。
「誕生日おめでとう」


「それでこんな手の込んだサプライズを……?」
 言ったのはミキさんだ。
 しかし、だ。
「もう正月だって越してるってのに、ツリーはねえよ」
 クリスマスツリーは年中無休で部屋に置かれているが、普段はほこりまみれだった。
 色んな飾りとともに綿が飾ってあったが、もしやほこりじゃあるまいな、と疑うほどだった。
 ツリー以外も部屋中に電飾がほどこされ、ピカピカ、チカチカと光っている。目映いばかりのイルミネーションだ。
 これは、いくらなんでも……、
「悪趣味ですね」
 直哉はついに声に出して言った。



「さ、さ、今日は三人とも主役だから」
 松田さんにすすめられ、僕ら三人は座った。
「じゃ、ケーキ切るよ」
 いつの間にかケーキがコタツの上に置かれていた。
「私やりますよ」
 とミキさん。
「え、そう? 悪いね、じゃあ」
 主役にやらせるのか。
 松田さんは、すっくと立ち上がった。
 戻ってくるなり、
「はい、お茶」
 ケーキにお茶かよ、と言うか言わないうちに、松田さんは自分が一番先に飲んだ。

「あつっ」
 と聞こえた。
 直哉もお茶を飲んで、熱くて思わず声をあげたようだった。
 僕はふうふうと息を吹きかけながら、似てない双子だが、猫舌なところは同じなんだな、と思った。

 ケーキを切るところで、ミキさんが手を止めた。
「ロウソク吹き消すのやってないじゃない……、ねえ松田さん、ロウソクはあるでしょう?」
「ああ、そういえば」
 まさかあのガラクタの中じゃ、と思って心配したら、どこからともなくロウソクを出してきた。
「なんでも手元にあって便利だろ?」
 いいから早く、と僕は目で訴えた。
 ミキさんはロウソクに火をつけた。
 直哉は電気を消した。
 松田さんは、
「ハッピーバースデートゥー……」
 と歌い出した。
 他の三人も、合唱せんとばかりに歌おうとした矢先、
「……ゆふうーっ」
 松田さんが火を吹き消してしまった。
 あっ、と三人の声が揃った。「びっくりした?」
 ふうっ、僕は、ため息をついた。
 悪趣味だ。本日の主役、全員が思ったはずだ。

 ……。

 それでも、僕らはここへ来る。こうやってたまに集まっては、ガラクタを見たり、騙されたりしている。


 ……。

 こんなことは、《心の友の会》にいる上では、日常茶飯事なんだよ。


 どう? 楽しそうだろう? 君も、この会に入ればいい。

 なあ、若者。青春しなくちゃ。

 え? ああ、そうだね、このアンケート用紙は古いやつなんだ、うん、住所とか書かなくていいし……。
 あっ怪しくないし、全然、うん怪しくないから。

 ナンパじゃないって……、
作品名:鏡台 作家名:行平