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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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約束

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 大竹は週末の土曜日曜を借家に住むことにした。谷津愛は大竹が小学6年の時に別れた仲の良いクラスメートで有った。大竹の裁判官の父の転勤で仕方のないことであった。大竹の記憶にはなかったが、その別れの時に、谷津と結婚の約束をしたらしかった。

いつでも、大竹君が来ても迷わないように、ここに住んでいます。いつ来ても新婚さんのように、新しいキッチンと家具をと思い、5年おきに換えています。

 週末に住むことになり、8軒のうち住んでいる5軒の家に管理人と挨拶回りをした。谷津の家は4棟が2列に並ぶ後ろで有った。その端から2番目で有り、右はじは空き家で、最初の家は谷津の家の左隣で有った。清水さんで年金暮らしの70歳代の夫婦2人で有った。次の家は小池さんで中学2年の女の子と夫婦の3人暮らしで有った。前の棟に行き、左棟から挨拶に伺った。30歳代の美人さんであった。風俗関係の感じの女性であったが、印象は良かった。岩田と表札が有った。
「ちょうど良かった。管理人さんの力で大島さんどうにかならない。お店に来てくれるのは断れないけれど、付き合ってくれってしつこいのよ。やくざさんのようだし」
「暴力とか脅しされたら電話して下さい。一刻を争うようでしたら、遠慮なく110番したらいいです」
前もって挨拶回りの曜日と時間を知らせたために、どの家の住人とも顔を合わせることが出来た。隣は空き家で、次はやくざの家であった。管理人がチャイムを鳴らしたが、返事は無かった。
「ごめんください」
と声を掛けたが、返事は無かった。管理人が戸を開けると、鍵は掛けてなかった。
「おおしまさん」
大声を出すと
「朝からうるせえな」
とパジャマで出て来た。
45歳前後に見えた。
「こちらに週末住むことになりました大竹です。よろしくお付き合いください」
2000円分の商品券を渡した。
「最近では珍しい。2000円もの商品券だなんて、このぼろ屋ではテシュボックスかタオルだよ。景気がいいんだな。仕事は何」
「事務の様な仕事ですよ」
「よろしくな。困ったことは相談してくれ。交通事故とか、もめごとは力になるよ」
 最後の家は日系ブラジル人の高校1年の女子と中学1年の女子と40歳代後半の夫婦であった。
 どの家の住人も家賃3万円の賃貸に住むだけあって、生活に余裕はない様であった。

 2ヶ月ほど経ったが、住人から谷津の事は何も聞き出せなかった。管理人が重い口を開いたのは、秋になってからであった。
「谷津さんは30年前から住んではおりませんから、住人は誰も知りませんよ。10年ごとに前金で家賃を置いて行くのです」
その日、大竹はスーツを着てみようと思った。内側には刺繍で大竹のイニシャルが有った。そのポケットの中には、手紙が入っていた。

大竹君にいつ会えるだろう。約束って大切だって、守らなければいけないって、大竹君は言ったのよ。高校の時も私は待っていたわ。時代劇の映画の中のいいなずけの様に。大学に進学して東京に住んだ時、何度か大竹君を探したわ。名前だけでは探しだせなかったわ。でも、でもいつかは大竹君から連絡あるって信じていたかった。それで、東京の高校の教師になったわ。その3年後に、父と母が交通事故に遭い、母は即死、父は両足切断。父の世話のために帰郷したの。それから5年間は父の看病で何もかも忘れられたわ。父が亡くなると。生きる力も無くなったわ。そんな時天井の板に、大竹君が観えたの。多分板に沁み込んだ汚れだったと思うけれど、確かに大竹君だった。1億円近いお金が入ったけれど、ここの家から離れる気持ちは無かったわ。両親が居るような気持になれたから、それに、大竹君のこと待っていたい気持ちからよ。
 このお揃いのスーツ、着こんで街を歩いてみたい。秋だから紅葉なんかいいと思って、でも、私は旅に出るわ。大竹君と2人の旅よ。
たった1枚の写真とね。いつ帰れるか分からないけれど、東北の寒村で、中学の教師になったわ。子供たちの中で気分転換出来たわ。
気持ち的には結婚したのよ。だから、単身赴任の気持ち。子供みたいでしょう。
 また5年後に来た時手紙を書くわ。

 すでに2人は還暦を過ぎていた。大竹は妻も子もいたが、せめて、これからの人生は、谷津と生きていかなければいけないような罪を感じた。もう少し早く手紙に気がつけば、谷津の居所は学校から割り出せたのだが、すでに退職し、転居していた。大竹は待つことにした。
作品名:約束 作家名:吉葉ひろし