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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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 藍李に何か気取られるのが気恥ずかしくて黒羽はそっぽを向く。
「ふーん。つまんないわー。ほんっとつまんないわー。嘘でもいいから私って言ってくれたらいのに」
 しかしあまりにも分かりやすすぎる黒羽の言動に、あれこれ察した藍李は唇を尖らせて彼女に背後から抱きつく。
「こら、ちょ、くすぐるんじゃねえ。大人しく寝ろよ」
「なら顔はこっち。……今日は付き合ってくれてありがとう」
 藍李が悪戯めいた顔から、大人びた顔つきになって黒羽はその頭を軽く撫でる。
「これぐらいならいつでも付き合うよ。あんまり、無理するんじゃねえぞ」
 ささやかでも藍李がこれで息抜きできるなら、それでいい。
「やっぱり、私が結婚したいのはあんただわ。じゃあ。おやすみ」
「おう。おやすみ」
 そうして黒羽と藍李は寄り添ってうとうとしながらゆっくりと眠りについて、それぞれの一日を一緒に終えた。
 
***

 翌日、すぐに黒羽へと妖刀帯白が藍李手ずから渡された。
「冥炎よりは軽いのは刀身がちょっとばかし短いから、か?」
 広々とした演習場で、黒羽は冥炎と同じく片刃の帯白を正眼に構えて慣れ親しんだ愛刀との僅かな差に違和感を覚える。
「使ってる内に慣れてくるわよ。試しに撃ってみて」
 藍李が背から九環刀、神剣九龍を抜いて万が一の暴発のために備える。いつも訓練に付き合ってくれている漓瑞はいない。
 砂巌での魔族襲撃の際に漓瑞も負傷した。骨折や打撲などの傷は直ぐに癒えたものの、体の内側が問題だった。神々の怨嗟である瘴気によって臓腑が傷ついていた。
 本人はそれほど違和感もないというのだが、外傷のようにはっきりと目に見えるわけでもないので念のため、もう少し妖刀の瘴気も避けた方がいいということになった。今日も漓瑞は定期検診のために医務部に行っている。
「よし。ああ、全然冥炎と違うな。なんつーか、変な感じだ」
 黒羽は帯白に霊力を流しながら眉をひそめる。引っかかりなく滑らかに霊力を乗せることができた冥炎と違って、ざらざらとした異物感があってなんとも心地が悪く馴染まない。
 いかに冥炎との波長が合っていた、初めて実感した。
 黒羽はやりにくいと感じながらも、帯白から炎を放つ。
 事前に説明を受けたとおり、白い帯状の炎が真っ直ぐに瘴気を受け止める特殊壁と向かって行く。
 黒羽は刀身を振って炎の向かう先を右手側に寄せさらに底から左へと蛇行させる。
 自分が思った瞬間と実際に炎が曲がる時に微妙なずれがあった。使いづらいというほどではないものの、冥炎と比べるとどうしてもしっくりこない。
「どう? 見た感じは悪くないんじゃないかしら」
「悪くはねえんだけどよ。いいっていうほどでもねえなあ。冥炎と比べてもしょうがねえんだけどよ」
「そりゃそうよ。冥炎とはぴったり合うようになってるんだもの。じゃあ、次は全力でやってどれだけ威力が出るかね」
 黒羽は藍李に言われるままに霊力を帯白へとひと息に流し込んでいく。
 波長が合わないせいか最後は無理矢理押し込態となりながらも、一気に力を解放すると帯と言うよりも絹の反物のように炎が刀身から溢れ出す。
 だが、すぐにみしりと手元で危うい音がした。
「まずい……藍李!」
 黒羽は異常を藍李に伝えると同時に、力を引き戻そうとするがすでに制御がきかなくなっていた。
 白い炎がどろりとした液状に形を崩れたかと思うと、すぐさま音もなく破裂して部屋中が真白い光に包まれる。同時に刀身も粉々に砕け散って、黒羽の両腕に激しい痛みが走った。
「くそ、藍李、無事か!?」
 閃光のせいで眩んだ視界がまがはっきりせず、黒羽は何度も瞬きしながら藍李に呼びかける。
「無事よ。そっちも大丈夫ね」
「おう。……目もなんとか見えてきたか」
 まだ瞼の奥が痛むものの、神剣を盾にして屈んでいる藍李の姿がぼんやりと見えてきた。
「ちょっと! 大して大丈夫じゃないでしょ、腕!」
 藍李の方も視界が利くようになったらしく怒声が飛んできて、黒羽は自分の腕を見下ろしてぎょっとする。
 掌から肘の辺りまで火傷の水ぶくれと裂傷からの出血で真っ赤だった。
「そんなに痛くねえな?」
 確かに負傷した瞬間は激痛があったものの、今は見た目のわりに痛みが薄い。
「黒羽、とにかく医務部、に……」
 駆け寄ってきた藍李が黒羽の腕を見て絶句する。黒羽自身も唖然として声が出なかった。
 ゆっくりと濡れた布が乾くように、水ぶくれが収まって皮膚が健康なものへと変わっていく。ぱっくりと割れた裂傷も浅いものから順に塞がる。
 そして完治とまではいかないものの浅い傷は全て塞がり、掌の軽い火傷といくつかの切り傷が残るだけになった。
「これ、緑笙と一緒だよな」
 一番末の神子でありアデルに体を乗っ取られている緑笙は、傷口が瞬時に塞がるほどの自己治癒能力を備えていた。
「そうね。今までも出血を抑えたりはできてたみたいだけど、明らかに治癒能力が強くなってるわ」
 藍李の言う通り、自己治癒に関してはこれが初めてではない。大抵は追い詰められた時に最低限命を繋ぐために止血していた程度だった。
 だが、これは明らかに今までと違う。
「あたしの体は本当に変化してるんだな。つーか、お前も怪我してるじゃねえかよ」
 自分自身の体が人とかけ離れていくことに戸惑いながらも、黒羽は藍李の服の一部が焦げ指先に火傷もあるのを見つける。
「私の方は掠り傷よ。神剣でほとんど防いだもの」
「大した事ねえならいいんだけどよ。悪いな。妖刀も壊しちまった」
 自分の力の入れ方が悪かったのせいで友人を負傷させたことに黒羽は罪悪感を覚えながら、鍔まで駆けてほとんど柄だけになってしまった帯白を藍李に渡す。
「気にしなくていいわよ。私のことも、妖刀もね。でも、暴発したってわけでもなさそうね。暴発して粉々になるのは刀身じゃなくて使い手の方だもの。蒼壱の完全同期の失敗にも似てるかしら。そっちも含めて、医務部に行くわよ。それ以上は治らないみたいね」
 藍李がじっくりと柄を眺めた後に、黒羽の腕を見やる。確かにこれ以上は急速に傷が塞がることはなさそうだった。
(……傷の割に痛くねえよなあ)
 しかし痛みだけはほとんどなくなっていた。緑笙も痛覚がなかったはずだ。
 このまま痛覚までなくなるのは少し恐い気がした。
「黒羽、痛む?」
 黒羽の表情が硬くなると、藍李が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、痛くねえ。痛くなさ過ぎるんだよな」
「痛覚もなのね。ここで考えてもしかたないからほら、さっさと診てもらうわよ」
 藍李に言われて黒羽も考えてもどうにもならないとやっとその場から動いた。

***

 医務部長のレンドールの触診が終わり、漓瑞ははだけていた上着の留め金を直す。
 五日ごとに受けている検診は、レンドールの様子を見る限り悪くもなってなければ、よくもなっていなさそうだった。
「今の所、特に気になることはありません。喉の爛れも回復してそのまま。体調にも変化はないですね。食事も通常通りに摂れている」
 毎回同じ聞き飽きたレンドールの質問に漓瑞はうなずく。
「問題ありません。症状も出ずに落ち着いています。検診はこの頻度でまだ続けるのですか?」
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: