小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

INDEX|16ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

(やっぱり何か知ってそうだよなあ)
 聡そうな子ではあるが、嘘を吐くのは苦手に見える。色々と知っていそうだだとはいえ、子供の秘密を暴くのはどうにも気が引ける。ニディは悪意からではなく善意から何かを隠しているかに見えるので尚更だ。
(あとで、漓瑞と課長達に相談してみるか)
 ひとりで考えるのは諦めた黒羽は象に残りの餌をやって門番達に挨拶しに戻る。
「すいません、坊ちゃまが何か」
「ああ、いや。ちょっと話してみたかっただけです。さっき迎えに来てたのも魔族ですか?」
 そして気になった迎えの青年が何者かついでに訊ねる。
「庭師のデヴェンドラです。あいつはまだ六年ですね。坊ちゃまの遊び相手にもなってます」
 庭師にしてはさきほどの警戒した雰囲気がそぐわない気がした。
「庭師の魔族もいるのか。色々だな。ああ、仕事の邪魔しました。じゃあ、失礼します」
 黒羽は色々なものが喉の奥でつっかえる感覚に首を捻りながら、表門の方へ向けて歩き出す。そして正門まで一周して屋敷の中に戻ると、あらかた事情聴取が終わったところだった。
 局員達に用意された中に面した一室で、漓瑞と並んで黒羽は絨毯の上に座る。
「黒羽さん、お疲れ様です。異常なしですか?」
「ああ。異常なしだけど、ここの坊ちゃまが妙に様子がおかしいんだよなあ」
 黒羽は漓瑞にさきほどまでのニディとのやりとりを話す
「ちょうど、こちらも新しいことが分かった所です。どうやら宝物の施錠を最後にしたのは、ご子息だそうです。ご子息が手伝いをしたいというので、簡単な鍵の施錠だけ頼んだそうで。その後、施錠されているかはご主人が確認したそうです」
「確認したなら、かかってたんだろ? もう錠前ごとなくなっちまってるからなんともいえねえけど、なんで今日になって言い出したんだ?」
「昨日は気が動転していて、自分で鍵がかかっているか確認しただけなのを自分で施錠したと思い違いをしてしまっていたそうです」
 娘の件があった後にこれでは確かに記憶が混乱しても仕方ないだろう。
「うーん、じゃあ鍵を閉め忘れたかもしれないって思って、ニディは様子がおかしかったのか……?」
 自分で言いながらも何かが違うと黒羽は悩むが、答は掴みきれない。
「今日の所はもう支局に戻えりますよ。証言をこれからまとめなければなりませんから」
「まあ、また後でだな」
 そしてその日の昼過ぎ、黒羽達は支局に戻ることとなった。帰り際、広く取られた窓の向こうを覗き込んで気になった庭師のデヴェンドラがいるか確認してみる。
 しかし巨大な大理石の水盆を中心に据えた中庭は広々としすぎて全て見渡せず、デヴェンドラの姿も確認することもできなかった。
 
***
 
 第九支局に戻るとすぐに会議となった。その中で焦点となったのはやはり長男のニディだった。
「最後にネッドさんが施錠を確認して、鍵もその時坊ちゃんは持ってなかった。親しい人間と魔族を合わせると十人前後。あんまり絞り込みすぎても見落とししそうだな……」
 アマン課長が後ろ頭を掻いて有力な手がかりとして断定すべきか否か迷う。
 ニディへの聴取は父親のネッドがしたものの、当人は自分の鍵の閉め忘れではないとわかってほっとした様子だったという話しかなっかたということだ。
「すんません、気になった魔族がいるんですけど、いいですか?」
 黒羽が庭師のデヴェンドラの名前を挙げると、調書と登録者名簿を整理していた局員が一枚探し出してアマン課長へと渡す。
「こいつか。歳は三十八、登録申請が六年前で登録されてすぐにネッドさんのところの庭師になってるな。坊ちゃんとも親しいらしい。取り調べした担当者は、と、君か」
 そしてアマン課長が取り調べを担当した者に詳細を訊ねる。
「そこに書いてあるとおり彼の職務は早朝から夕方まです。庭師なので屋敷の中に入ることはまずないそうです。取調中も落ち着いた様子で特に不審な所はありませんでした。えっと、外で会われたときの様子は少し変わっていたのですか?」
 問われて黒羽はうなずく。
「ニディと話してたんですが、その時妙に警戒してる気がしました。すんません、はっきりと言い切れるわけじゃないんすけど気になって」
「取り調べの時は上手く取り繕っていたということもあるか……それも考慮に入れときます後は、使用人もふたり詳しく聞きたい者が何名かって所か」
 アマン課長が調書を読み上げながら料理番、侍女、清掃係などの名前を挙げそれぞれの意見が交わされるがこれといった決め手となるものはででこない。
「ご令嬢の家出の経路も洗い直した方がよいかもしれません。これだけ出入りが厳重ならば屋敷から出る方法も限られるでしょう」
 漓瑞が意見を述べて、黒羽はニディの言っていたことを思い出す。
「ニディは誘拐じゃなくて駆け落ちだって考えてるみたいです。そっちも何か知ってるかもしれないです」
「お嬢様は屋敷から出ることも少ないから、駆け落ち相手も屋敷内の誰かか繋がりがある魔族だろうという話だしなあ。よし、ひとまずは坊ちゃんとお嬢様にふたりに繋がる魔族から調べていくか」
 そして先程挙げられた魔族の中で両方と繋がりがありそうだということで、デヴェンドラが一番に上がった。
 容姿は二十代前半。令嬢のネハは十九と釣り合いが取れていて、彼女の部屋は中庭沿いにある。ほとんど異性との交友がない深窓の令嬢にとって、弟のニディと親しい青年と親密になり得る可能性は十二分にある。
 とはいえ、あまり一点に絞り込みすぎるても見落としが出るとして、候補に挙がった魔族全員の調査と近隣の見廻りの強化を続けることとなった。
 そしていくらかニディと打ち解けた黒羽は明日にもまた、アマン課長と屋敷へと赴くことが決定した。
「結局、これ窃盗団とお嬢様の駆け落ち相手が繋がってるってことか?」
 会議が終わった後、休憩ということになり宿舎の一室に戻った黒羽は、座卓が置かれた絨毯の上であぐらをかいて首を捻る。
「何かしらの関係はあるでしょう。魔族同士の繋がりも独特でしょうから、砂巌と同じく全員で何かを隠している可能性は排除しきれません。騒ぎが静まる頃に駆け落ち相手も窃盗犯も姿を眩ませるつもりでしょうが。こちらが警戒を強めれば焦って何か行動をおこしてくれるかもしれません」
 それに答えたのは、きちんと正座している漓瑞だった。
「魔族監理課の仕事って根気いるなあ。妖魔監理課みたいに妖魔が出たから駆除して終わりっていうわけにもいかねえし。お前は魔族監理課向きだよな」
 同じ妖魔監理部でも仕事の性質が異なるとは知っていたつもりでも、実際に中に入って仕事に関わってみると堪え性もなく読み書きが苦手な自分には向いていないとつくづく思う。
「私は、特段戦闘に秀でているわけでもありませんからね」
「つっても体術得意だし、そこそこ強いからなお前。……アデルと片がついたらやっぱり藍李に頼んで局員にもどれねえのかな」
 自分と組んでいる時は補助役に徹している漓瑞だが、魔族監理課所属時代は検挙率も高く優秀で係長への昇進の打診もあったのだ。このままでは宝の持ち腐れであることは、藍李も分かっているだろうに。
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: