盗賊王の花嫁―女神の玉座4―
そして今日の所は支局員と警邏隊員、それぞれふたりずつ置いて引き上げて明日以降となった。
「魔族の使用人も多いのですね」
あちこちに高価そうな装飾品が並ぶ屋敷内を外へ歩く途中、時々すれ違う使用人の片手に魔族の証である刻印を漓瑞が見ながらつぶやく。
「ネッドさんは魔族の就労に協力してくれてるんです。毎年多額の喜捨も監理局にしていただいている、大変信仰に厚い方なんです。なのに、こんなにも不幸続きではやるせないですね。お嬢様からも早く連絡がつくとよいのですが……」
善人がむくわれないというのはなんともやるせないものである。
「ん、子供?」
ふと、黒羽は柱の陰にいる十歳ぐらいの少年を見つける。少年は視線が合うと、一目散に奥へと逃げてしまった。
「あれは跡継ぎのニディ様ですね。この騒ぎですから、気になったんでしょう」
人見知りする性格なのか、見慣れない異国人に怯えてしまったのかそれにしてもずいぶん慌てた様子が引っかかった。
黒羽は少年が消えた先に後ろ髪を引かれながら、屋敷の外に出るとすでにあたりは真っ暗で空には丸い月が浮かんでいた。
(どこ行っても空はおんなじだなあ)
見慣れない景色の中で、空を見上げると変わらないものがあるのは安心すると感慨深くなる。
そしてこの後に大きな動きはなく、出向初日の夜は静かに更けていった。
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: