Mother&Son
その日の夜。スティーブン(人格はサラ)は寝間着に着替えようと服を脱いだとき、何を思い付いたのか上半身を触った。
(あら、スティーブの体つき、いつの間にかティムに似てきたわね)
そして、16年間を脳内で軽くプレーバックしながら着替えた。しかし、現実に目を向け直すと、嫌な状態は変わっておらず、彼(女)はベッドの中で泣きだした。
(はぁ…。これから先、今日みたいに周りをだまし続けないといけなくなるのかしら…。私の心も痛むし、せっかく人生の大きな一歩を踏み出したスティーブも、いずれつまずいてしまうかもしれない、立ち上がれないぐらいに。そんなの…そんなの嫌よ。すぐにでも、元の体に戻りたいわ……)
一方、サラ(人格はスティーブン)も同じく現実のつらさに打ちひしがれていた。
(あぁ、しんどい。俺を産んでくれた体を悪く言いたくないけど、体は重いし、すぐ疲れるし、腰は痛いし……。それに、楽器のことなんてギターとベース、ドラム以外あんまり分かんないんだよな…)
思い詰めたあまり、彼の目から涙がこぼれた。
(俺、この先どうすりゃいいんだろ……)
サラは、枕の下に置いてあったティムの写真を見ながら言った。
「父さん、俺たちと一緒にお祈りしてくれませんか」
彼女は、わが子と共通の心の支えであるティムの写真を枕の下に入れると、電気を消して再びベッドに入った。
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翌朝。母子はいつものように起きて朝食を取り、息子のほうが先に仕事場へ向かった。ところが……。
「やだ私ったら、スマホ忘れてきちゃった!」
スティーブンは自宅に向かって全力疾走した。それと同じ頃、母のサラが出勤した。そして案の定、2人はまたも正面衝突した。
「ごめん、母さん…」
そう言いながら、スティーブンが立ち上がった。
「もう、前方向には注意しなさいって、昨日も言ったでしょう?」
サラもそう言いながら立ち上がった。
「「あ!」」
母子は同時に叫んだ。
「母さんだよね?」
スティーブンが尋ねると、サラも尋ねた。
「そうよ。おまえはスティーブね?」
「うん、そうだよ」
2人は元の人格に戻ったのだ。
「よかった、戻ったわ!」
「やったあ!」
彼らは大喜びで強いハグを交わした。
かくして、母と息子を襲った「災難」は完全に去ったのであった。
作品名:Mother&Son 作家名:藍城 舞美