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マル目線(後編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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軽食コーナーへ行くと、そこには人魚姫と近衛隊長が先程よりも随分親しそうな様子で軽食をお皿に盛っていた。

(作戦大成功じゃん、王子。)

私は彼らを横目に、軽食を盛り付けてバルコニーに戻った。

すると、そこには王子しかいなかった。

「あれ?おひとりですか?」

私があたりを見回しながら訊ねると、王子が不機嫌そうに私を睨んだ。

「なんで誘ったりしたんだよ。おかげで最終手段使わないといけなかったじゃん。」

(最終手段…?…ああ、あれね。)

私はプッとふきだすと、王子の前にお皿を置いた。

「ま、減るもんじゃないし。」

私の言葉に更に目付きを鋭くしながら、王子は私にワイングラスを突き出す。

「心の潤いはすり減るよ!好きでもない相手に色目使いながら、頬とか手とかにキスするなんてさ!そういう職業じゃないんだし!」

言いながら、私が注いだワインを王子は一気に煽る。

「まぁ、それをすれば純情なお嬢様方は、恥ずかしくなって逃げるでしょうね。」

私が頷くと、王子はパンをちぎって口に放り込む。

「ひとりでゆっくりしたかったからさ~…身を削ったよ。」

(ひとりで…ね。)

「かしこまりました。…あ、人魚姫は近衛隊長とずいぶん親しくなられてましたよ。では!」

私は言いながら頭を下げ、近くの樹上へ跳び移った。

「…え!?」

驚いて小さな声をあげた王子は、キョロキョロとあたりを見回して、ふっとため息をつく。

「…別に、マルにどっか行けって言った訳じゃないんだけど…。」

ぶつぶつ呟く王子が、可愛い。

王子は私が用意した軽食とデザートを食べると、手酌でワインを飲みながら、暫く夜空をぼんやりと見上げていた。

「王子、そろそろ戻らないと。」

樹上から王子の顔を覗き込むと、王子が私を見上げてふっと笑った。

その微笑みが気だるげな甘さを含んでいて、私の胸がとくんと高鳴る。

酔っているのか、視線を若干熱っぽく感じた。

「さて、本日最後の仕事をしてきますか。」

王子は、大きく背伸びしながら立ち上がった。

「マル、最後くらいは出てきてよ。…僕ひとりじゃ疲れるんだ…。」

(!)

甘えるようなその口調に、私の鼓動は大きく跳ねる。

(頼りにされている、って勘違いしてもいいのかな。)

私はどうしようもなく舞い上がる心をなんとか押さえつけながら、樹上から飛び降りた。

そして、優雅な足取りで会場へ向かう王子の後ろからついていく。

「今日で解放されたらいいな~。」

言いながら、王子は大きなあくびをする。

「ワイン、飲みすぎたんじゃないですか?」

「ん~、だね。ひとりで緊張してたからさぁ。…それに何気に」

飄々と言いながら、私をふり返る。

「マルに依存中?」

明らかに酔っぱらった艶っぽい流し目で、妖艶に微笑んでくる。

(!!)

せっかくなんとか保っていた平常心が、一瞬で崩壊した。

(やばい!やばい!!)

半ばパニックに陥りながら、打ち砕かれた平常心をかき集める。

(なにか…なにか、お互い冷静になる言葉を言わなきゃ!)

「~~~、きもっ!」

その結果、言い放った言葉が…これだった。

王子はその瞳をスッと細めると、私に体ごと向き直る。

「口悪いよね、マルって。まぁ男だからいいけどさ~。」

突然、肩を抱き寄せられた。

「でも顔はめっちゃ美少女だよね~。黙ってたら、ほんと男に見えない。」

「ちょっ…酔っぱらい!なにするん…!」

もがいたその瞬間、鋭い殺気を感じた。

私は、肩に回された王子の腕を払いのける。

王子も殺気に気づいたのか大人しく、私の後ろへ下がった。

そんな王子を背中に庇いながら、私は背中の忍刀を一気に抜き、殺気の方へ素早く突きだす。

すると、威嚇した先には…人魚姫が小刀を持って立っていた。

「人魚姫!?」

人魚姫は小刀を握りしめたまま、怒りに満ちた瞳で私を睨む。

『あなたがいるから、王子は他の女に目を向けないのよ。』

(…え?)

読唇術で読み違えたかと首を傾げる私を、人魚姫は更に怒りが増した表情で睨む。

『王子はあなたの前でだけ、素を出している。他の女の前では心を許してくれない。あなたがいる限り、私は泡になるしかない。』

「…そんなことは、ないです。」

私は掠れた声で答えた。

「あなたたちが、王子の容姿にばかりとらわれるから、王子が心を閉ざすんです。もっと、王子の本質に目を向けて、王子と同じ物を見て、王子と心を通わせれば、王子の心は開くはずです。」

『偉そうに!!』

人魚姫が目を剥いて、私に小刀をふりかざす。

その瞬間、王子が人魚姫の背後に回り込み、小刀を持つ手首を掴んだ。

「なんなの?」

王子は、人魚姫を冷ややかに見下ろす。

手首を掴まれた人魚姫は、王子を見上げると、王子の胸に飛び込んだ。

「触らないで。」

王子は、容赦なく人魚姫を突き放す。

そして、その手首を捻りあげた。

人魚姫は、小さく呻いて小刀を手から落とす。

「王子様!!」

近衛隊長が叫びながら、バルコニーに飛び込んできた。

王子は近衛隊長に、人魚姫を乱暴に渡す。

「好きなら落とせ、って言ったじゃん。なにしてんの。」

近衛隊長は人魚姫を抱き止めると、跪いて頭を垂れた。

「は…、力不足で申し訳ありません。」

王子は私の前に立つと、人魚姫が落とした小刀を拾い上げる。

「何言ってたか、知らないけど。」

そしてその小刀を鋭く投げる。

カンッと乾いた音がして、人魚姫の小刀は、私が登っていた樹の幹に突き刺さった。

「こんなことして、僕の心があなたに動くとでも?」

怒りに満ちた声色で、人魚姫を睨む。

「僕の容姿で一方的に気持ちを寄せてきた女性に、僕は気持ちを動かされることはない。でもあなたが、『想いを寄せた相手に一週間で振り向いてもらえなければ泡となって消える』なんて脅してくるから、僕は恩もあったし、何とかしてあげたいって思ったのに。」

王子は、近衛隊長と人魚姫を見ながら唸るように言葉を続ける。

「幸い、近衛隊長が昔からあなたに想いを寄せていたので、それならあなたの気持ちが彼に向けば泡問題も解決すると思って今回パーティーを開いたんだ。今回、あなたへの恩返しに僕は心を尽くしたつもりだ。それに対して、これか!?」

こんなに激昂する王子を初めて見た。

山賊を相手にした時と、また違ったとてつもない殺気を全身から放つ。

その恐ろしさに、その場にいた者は全員、身を震わせた。

王子の言葉を訳している近衛隊長に、王子は鋭い視線を向ける。

「あとは、おまえに全て託す。海底国の言葉を習得するくらい、本気なんでしょ?泡にしたくなきゃ、本気で落としなよ。」

「は。」

近衛隊長は、人魚姫を抱きしめながら深々と頭を下げた。

いつの間にか、バルコニーには招待客が集まっていた。

王子は招待客の方を向くと、即座に表情を和らげ、にっこりと微笑んだ。

「独身貴族だった近衛隊長が、遂に身を固める相手を見つけたようです。皆、どうか祝福を。」

すると、何事かと不安げに様子をうかがっていた招待客の顔がかわる。