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マル目線(後編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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そう小さな声で言われた瞬間、王様は玉座を立ち、ワイングラスを掲げた。

「我が息子にして我が国の後継者でもあるカレン王子と花の都の姫マルの新たな旅立ちに、乾杯!」

広間中に、音楽と乾杯の声が溢れる。

(『花の都の姫』。)

王様は、私を認めてくださったのだ。

嬉しくて王子をふり返ると、王子も私を見つめて大輪の花が咲くように微笑んだ。


王子は王様の足元の椅子に優雅に腰かけると、ワイングラスを手に取る。

私がそのグラスにワインを注ぐと、王子は穏やかな笑顔で私を見つめ、頭を撫でた。

(王子?)

人前で恋人同士のようなことをされ戸惑っていると、王子はグラスを持ったまま立ち上がる。

そしてホールへ向かう姿に、王子の目的を察知した。

王子は、彼女のもとへ向かったのだ。

彼女は、複雑な表情で王子を見つめた後、踵を返して出口へ向かう。

「待って、話をさせて、サンドリヨン。」

王子が彼女を追いかける姿を見て、私は天井裏へとびうつる。

そして先回りして、会場の外へ出た。

さすがに農家の娘だけあって、足腰が鍛えられているようだ。

運動神経の良い王子が追いつけないくらい、素早く会場から飛び出してきた。

履き慣れないガラスの靴を脱ぐと、手に持って階段を駆け降りる。

そして、馬車の前で彼女を待ち受けている私を見つけると、鋭い視線で睨んできた。

「待ってください!王子の話を聞いてやっ」

その瞬間、手に持っていたガラスの靴を片方、投げつけられた。

「顔も見たくない!!」

そう叫ぶと、彼女は馬車へ飛び乗る。

「早く出して!」

「待って!」

馬車へとびつくも、彼女を乗せた馬車は走り去ってしまった。

つい少し前まで、彼女と私は立場が逆だったのだ。

私が感じたあの苦しい気持ちを今、彼女は感じているのだろう。

私は馬車に向かって、頭を下げた。

そして、階段をのぼる。

そこには、呆然と馬車を見送る王子がいた。

「王子、これを。」

私は王子に、ガラスの靴を渡した。

これは、ドレスや羽織と一緒に、王子が彼女にプレゼントした物だった。

王子はそれを受けとると、再び階下を走り去る馬車を目で追った。

「傷つけてしまったな。」

(王子…。)

そう言う王子こそ、酷く傷ついた顔をしている。

今回、彼女を振り回してしまったことで、自身を強く咎めているのだろう。

なので私は敢えて、辛辣に言い放った。

「まぁ、今に始まったことじゃないでしょ。今まで何人、こんな感じで乗りかえました?なにを今更。」

私の言葉に、王子がゆっくりとこちらをふり返った。

私は、王子にいつもの調子を取り戻してほしくて、励ましたくて、更に言葉を重ねようと口を開く。

「私もいつ同じようにな」

私の唇が、王子の唇に塞がれて、それ以上言えなかった。

「…ん。」

私と王子は唇を重ねたまま、同時に息を吐く。

そしてすぐに、王子の唇は離れた。

重なるだけの風のような口づけだったけれど、私は突然のことに呆然と王子を見上げた。

王子はまっすぐに私を見つめると、私の後頭部に手を添える。

そしてグッと引き寄せると同時に、その端正な顔を私に近づけてきた。

大きなエメラルドグリーンの瞳は甘く細められ、私の唇を塞ぐと同時に閉じられる。

そして歯をこじ開けるように、ぬるりと王子の舌が入ってきた。

王子の舌が私の舌を絡めとると同時に、私は目をギュッと瞑り、全身に力が入る。

そんな私を王子は優しく抱きしめると、背中をゆっくりと撫でてくれる。

そして角度を変えながら、ゆっくりと愛撫するかのように深く口づけてきた。

(ワインの香りと味がする…。)

王子の息づかいや香りを感じながら、王子に愛を口移しで伝えられているようで、舌が絡む度に幸福感が満ちてくる。

『今までと違う。』

そう言われているような口づけだった。

私の不安や警戒心を解きほぐすように、王子はゆっくり私の様子をうかがいながら優しく、そして熱く口づけを深める。

私は、じょじょに王子に身を委ねた。

(もう、なにも考えられない…。)

口づけの幸福さと心地よさにうっとりとし、王子の襟をギュッと握りしめる。

すると、王子も私を強く抱きしめて背中を優しく撫でてくれる。

思わず甘い吐息を漏らしたところで、王子が唇を離す。

お互いの情が絡んだ糸がお互いの唇を繋ぐと、王子がそれも絡めとるように私の下唇をペロッと舐めた。

「マルのおかげで、人を愛するってどういうことなのか、ようやくわかったんだ。」

熱を孕んだエメラルドグリーンの瞳に映る自分を、私はうっとりと見つめた。

「だから、今までみたいな遊びはもうしない。」

(王子…。)

本当に、これは夢ではないのだろうか。

私は王子をジッと見つめながら、頷いた。

(夢じゃないなら、もう一度、激しく奪ってほしい。)

王子を見つめながら目で訴えると、王子はその瞳をスッと細めた。

そして獲物を捕らえるかのように私の後頭部を荒々しく引き寄せると、かぶりつくように唇を重ね、もう一度舌を割り入れてきた。

先程とは違い、王子の激情を流し込まれるように角度を変えながら、激しく舌を絡めとられる。

そして口づけの息苦しさなのか、お互いの気持ちの昂りなのか、どちらからともなく息継ぎを繰り返し荒い息を吐きながら、お互いを求め合う。

だんだんと腰に力が入らなくなってきた私は、王子にしがみついた。

すると、王子も私を掻き抱く。

(こんなに幸せで、いいのだろうか?)

身分も性別も捨てて忍として生きてきたけれど、ここにきて女としての自覚を持たされた自身に一抹の不安を覚える。

これから王子と二人で旅に出たら、どうなってしまうのだろうか?

けれどそんな不安をも絡めとり奪うかのように、王子は私を掻き抱きながら激しく深く口づけ、私もいつしか何も考えられなくなった。

(続)

※次回は二人で旅に出ます。最初に向かったのはもちろん…。