3作品目 「かわれない」
男 こんばんは。
学生 こんばんは。
男 …。
学生 何をしているのか?
男 …。
学生 絵を描いているんだ。
男 何の絵を?
学生 夜。
男 夜。
☆男、学生から絵を見せてもらう。ひたすらの黒。
男 ありがとう。
学生 どういたしまして。
☆学生、カッターナイフで鉛筆を削り、屑を紙袋に入れる。
男 屑を捨てないようにしてるんだ。
学生 ああ、いや。
男 ん?
学生 別に捨てないようにとか、そういうことではないや。
男 じゃあ、どういうこと?
学生 燃やすの。
男 へぇ。
学生 学校を。
男 …。
学生 だから、屑を溜めるの。ぱんぱんにすんだ。
男 なるほどね。
学生 才能の無い劇作家や死にたがりのサラリーマンを詰め込むんだ。
男 口だけの根暗学生は?
☆学生、にやりと笑う。
学生 夏休みの宿題ってあるじゃん。
男 ああ。
学生 あれのやり方って、人それぞれだよね。
男 先に終わらせたり、計画立てたり、後に回したり、終わらなかったり…。
学生 それって、大人んなっても変わんないんだって。
男 へえ。
学生 根暗は根暗、屑は屑かごさ。
男 …。
学生 ねえ、ティラノサウルスの和名って知ってる?
☆学生がくすくす笑う。
男 いや。
学生 暴君竜さ、男らしいだろう。日本男児?
男 …。
学生 こんなところで屑と話している暇なんてあるのかい?
☆学生、カッターナイフで手のひらを切る。血の付いたカッターを紙袋へ入れる。
学生 自傷行為自傷行為。
☆学生、手のひらの血をスケッチブックに塗りたくる。
学生 いい色だな。夜って感じだ。学校が燃えたら、こんな色かな?
男 お前、ほんとに学生か?
学生 じゃあ、誰と話してんのさ? いままでも、いったい、誰と話してたのさ?
男 誰って…。
学生 ああ、妖怪か。
男 え、…。
脚サ学 きゃはははははっ!
☆脚本家、サラリーマン、学生、無になる。男を見つめる。
☆店員イリ、コンビニの入店音がする。
店員 いらっしゃいませ。
男 …、ああ。
☆男、不審挙動気味にまわりを見る。意を決して、えっちな本を手に取り、店員を見る。
☆店員の方に近づいていくが、途中でえっちな本を手から落とす。
☆えっちな本には目もくれず、そこら辺の商品を乱雑に手に取り、店員の前に差し出す。
店員 はい。
☆ぴ、ぴ、というレジの音が鳴り響く。
男 …。
店員 …。
男 こんばんは。
店員 こんばんは。
男 …。
店員 お夜食ですか?
男 え?
店員 お夜食ですか?
男 え、ああ、はい。
店員 お身体には気をつけて。
男 ああ。
店員 全部で、1672円になります。
男 あ、ああ、はい。はい。
☆男、あわてて財布を取り出し、お金を出す。
店員 2000円からですね。
男 え、ええ。
店員 328円とレシートのお返しになります。
☆男、御釣りを受け取る。気持ち悪い笑みが零れる。
店員 ありがとうございました。
☆男、その場で立ち尽くす。
男 …、あ。
店員 …。
男 …あ、あ、あの。
店員 …、あの、なにか?
☆男、走ってハケ。
店員 …、またお越しくださいませ。
☆脚本家、サラリーマン、学生、前を見る。
脚サ学 闇、夜に、溺、れて、しま、わぬ、うち、に…。
暗転、三人の笑い声が聞こえる。
終わり
作品名:3作品目 「かわれない」 作家名:月とコンビニ