Deep Fantasia
泳いで陸に上がると、そこは日の沈む寸前でした。しかし、海岸のそばの建物など、陸の光景は変わっていません。
「いやあ、僕は随分長い時間、向こうにいたんだな。ところで、この袋の中身って何だろうね」
良太郎は、人魚姫からもらった袋を開けてみました。
中に入っていたのは、地上にもありそうな、ピンクの縁のタンバリンでした。
「これは、タンバリンだ」
そうと知ったからには、鳴らさないわけにはいきません。良太郎は、タンバリンを振ったりたたいたりしました。
するとどうでしょう。彼の両脚が勝手に海のほうへと動いていくではありませんか。
「うわっ、止まれ、止まってくれよ、僕の脚!」
良太郎が叫んだにもかかわらず、彼の体はタンバリンを持ったまま、勝手にどんどん沖へと進んでいきました。
良太郎の足が付かないところまで行くと、今度は彼の体が勝手に泳ぎました。持っていたタンバリンを放ってから。
「誰か、誰か僕を止めてくれ…!」
しかし、彼の声は海の生き物にさえ聞いてもらえませんでした。泳ぎ続けているうちに、さらに信じられないことが起こりました。
何と、彼の足の先からだんだんと泡になっていったのです!これには彼も恐ろしくなって、さらに速く泳ぎました。
パニックのあまり、良太郎はよく分からないことを口走りました。
「誰でもいい、僕を釣ってくれ…!」
その直後、遊 良太郎の胸の辺りが泡になり、やがて彼は完全に海の泡になってしまいました。
− 善良で無邪気な人魚たちは、遊 良太郎に起こったことを今でも知りません。
- Fin -
作品名:Deep Fantasia 作家名:藍城 舞美