赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 36話~40話
「清子。あんた、食べ物に好き嫌いはあるかい?」
路地道を歩く恭子が、後ろを振り返る。
カラコロと下駄を鳴らしながら歩く恭子は、かなりの早足だ。
とつぜん目の前にあらわれたT字路や分かれ道を、方向も告げず、
ヒョイと向きを変え、ずんずん進んでいく。
あとを着いて行く清子も、自然に急ぎ足になる。
カラコロと鳴る下駄の音がふたつ。
醤油と味噌の匂いの入り混じった路地にひびいていく。
いきなり目の前が、ひらけてきた。
喜多方市の中心部を流れている、田付川だ。
飯豊山地を水源に、喜多方の市街地を南に流れたあと、会津城下の坂下町で、
一級河川の阿賀川と合流する。
毎年、鮎の稚魚が大量に放流されることで有名だ。
川べりに出たところで、恭子の足取りが、ようやくゆるやかになった。
「見て。ここが、あたしの一番好きな、喜多方の景色。
さてと・・・とっておきの名所の紹介は済んだから、腹ごしらえに行こうか。
人口3万7000人の街に、120軒以上のラーメン店があるんだ。
人口の比率で言えば、日本一だ。
スープは、豚骨と煮干しのものを別々に作り、それをブレンドする。
醤油味が基本だけど、店によって、塩味や味噌もある。
好みが有るなら最初に言って。どんな希望でも、かなえてあげるから」
「食べ物に好き嫌いは、ありません。
強いて挙げるなら、清子姉さんが大好きなラーメンを、ご馳走してください。
もしかしたら好みが、あたしと一緒かもしれませんから」
「ふぅ~ん。逢ったばかりだというのに、面白いことを言うわねぇ。
あんたって。
なんか根拠でもあるの?」
「赤い鼻緒の色具合が、あたしの好みといっしょです。
あたし。真っ赤な、鮮烈すぎるほどの赤が、大好きなんです。
それに白い靴下を履いているから、余計に、赤が目立ってとっても素敵です。
でも靴下で無理やり下駄を履くと、靴下が2つに割れてしまって、
見るからに可哀想です」
「この靴下のことかい。だって仕方ないだろう。
下駄は好きだけど、あたし、靴下はこれしか持っていないんだもの」
「あたしの足袋でよければ、差し上げます」
「お前の足袋をくれる?。逢ったばかりのあたしにかい?。
そりゃぁ嬉しいよ。だけどさ、あとであんたが、困ることにならないかい?。
見習いとは言え、足袋は、大切な商売道具のひとつだろう?」
「でも。2つに割れてしまっている靴下のほうが、よっぽどかわいそうです。
とても黙って見ていられません。」
「ふぅ~ん。見過ごすことができないのか。
あんたって、お節介な子なんだねぇ。
でもさ。なんだか、ちょっぴり、面白そうな女の子だねぇ・・・・」
(39)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 36話~40話 作家名:落合順平