便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン
俺は右に90度体を回転させた。視界にワンボックスカーが猛スピードで迫ってくるのが見えた。助手席の窓が開いていて俺に向けて銃を構えているのが見えた。
とっさに引き金を引く。ドンというショットガンならではの反動と轟音が体を震わせる。
ひゅんと耳元を何かが通った。奴の撃った銃弾だろう。
俺の放った散弾は助手席の窓に命中していた。
散弾はそこまで狙いを定めなくても広範囲に散って命中率を高めてくれる。窓ガラスは粉々に砕け車はそのまま走り抜けたため中の奴がどうなったかは確認できなかったがただではすまなかっただろう。何しろ散弾とはいえ00Bは9発しこまれた弾丸の1発ずつが中型拳銃並みの威力を持ち全部合わせれば最強クラスの拳銃弾として有名な44マグナムの2倍のエネルギーを誇る。それを歩道を挟んで5mも無い距離で撃ち込まれればどうなるか。言うまでも無いだろう。
再度スライドを引き次弾を装填、狙おうとしたがコートの男が撃ってきたので顔を出せなかった。射撃が途絶えたとき意を決して飛び出したが遅かった。
車は奴の横に止まり、奴は乗り込んだところだった。俺は最後の散弾を撃ったが車のリアガラスを粉砕するだけにとどまった。
俺は舌打ちして警察署に戻り現状を確認した。
撃たれたのは昨日俺が捕まえた銀行強盗だった。留置所から取調室まで移動しているところを中庭から狙撃された。警察署の建物は受付や署長室がある本館と交通課などがある別館があり渡り廊下でそれをつないでいる。要するにコの字をしていて別館の留置所から本館に廊下を渡っている最中に撃たれたわけだ。
犯人、間違いなくさっきの男は中庭の端から廊下の男を撃ち、そのまま大胆に本館に入って玄関から出て行ったのである。
警察は白昼堂々容疑者を署内で撃ち殺され犯人も取り逃がしたことになる。前代未聞の不祥事といえよう。シェリフの心中察するに余りある。俺はとても別件の質問なんてできなくて帰宅した。ジュンもさすがに同じ思いだったようだ。
モッズコートの男。おそらくは凄腕の殺し屋だろう。動物好きで何故か震えていた。
震える殺し屋・・・か。
プジョーをぶっとばして帰宅すると駐車場に見覚えのない男が立っていた。肌はやや浅黒く長身。大きな目は白目の綺麗さが印象的だった。歳は俺より少し上だろうか。プジョーの小さな青い車体を見つけるとにこやかに微笑んできた。それなりにハンサムといえる顔立ちだが・・・はて誰だろう。丸腰に見えるが一応警戒し車を降りた。
「ややあ、風見ちゃん」
話しかけてきた声としゃべり方ですぐにわかった。
「ベンか?!」
「そそそそうだよ」
嬉しそうに笑った。こいつの表情はじめて見た。
「あなた友達の顔もわからないの?」
背後からジュンが非難した。しかしだな。
「割と長い付き合いだが昨日の格好しか見たことないもん。ぶっちゃけ顔見たの初めて」
「どういう付き合いなのよ」
どういうったってこういう奴なんだから少し変わった付き合い方になったって俺のせいじゃねーだろ。
「けけけ決心して風呂に入ったよ」
「そうか! 偉いぞ。しかしその服似合わないな」
似合わないというかサイズがだぶだぶなのだ。ちゃんと洗濯されているところを見ると盗品やゴミの類ではなさそうだが。
「じじじジムに借りたから」
なるほど。本来なら三郎のを借りればよさそうだがまた留守なのだそうだ。勝手に部屋に入ったらセキュリティシステムでマシンガンが仕掛けてあるかもしれん。
「ちょっと小さいかもしれんけど俺の仕事着貸してやるよ。それよりはましだろう。それにちょうどよかった。力が借りたかったんだ。来てくれ」
ベンは笑顔で俺についてきてくれた。背後でジュンが「ベン割と男前なんだねー」と声をかけるとテレまくってちょっと逃げ出してはいたが。
警察署襲撃事件はすでにテレビで中継されていた。そしてそれより詳細な情報がラーメン屋から出前されてもいる。みんな仕事速いな。
発射された弾丸は一発。発射地点から被害者までは30mもある。弾丸は額に撃ち込まれ即死だったらしい。達人の域だろう。俺にできるかどうか。白昼の死角というか、誰も発砲の瞬間を見ていなかったそうだ。署に入ってすぐバンっだったからな。あの男、何かを見て中に入っていった。あの位置からターゲットが渡り廊下に出てきたのは見えない。誰かが先に署内にいて合図したに違いない。殺されたのが銀行強盗の生き残りであることからして組織的な犯行。組織を隠すための口封じということか。
俺はあいつの高笑いをふと思い出していた。
殺し合いしただけの間柄だったが何か人として繋がるものを感じた。何故か怒りを感じていた。
「えー、こっちの方が似合うよー」
「そそそうかな」
って・・・おい。
「人がシリアスに事件の検証してる横でイチャイチャとコーディネートするな!」
ここは俺の部屋で、勝手に俺の服引っ張り出しジュンがベンを着せ替えて遊んでいるのだ。
「ごごごごめん」
「だってーみんな仕事服じゃつまんないじゃん」
ベンは素直に謝りジュンは思いっきり唇をひん曲げた。
「仕事中に仕事服着てて何の問題があるんだ! 遊びじゃないんだぞ」
ちなみにこのシャツは単なるデニム地ではなく裏にケプラーが貼ってあり難燃簡易防弾にもなっている優れものなのだ。仕事での安全上もこれを着ている意義はある。
「おおおお俺、やっぱBIG-GUNの服でいいいいな。ななななんか仲間っぽいし」
ぽいじゃねぇ、お前は仲間だ。ジュンはちと不服そうだったがベンがいいというんだから仕方ない。
「じゃあさ、髪形いじろうよ。洗面所いこう」
とことん屈しない野郎だ。無抵抗のベンを引きずって鏡の間に移動していった。
まあ、都合いいや。
「で、その他の情報は?」
ジムは無言でラーメン屋の報告書を渡してくれた。ふむ・・・あまり進展は無しか。やはり鈴木夫人、峰子さんに会うしかないか。そっちの段取りは三郎がつけているはずだが・・・。
「彼女はどうする?」
ジムが深刻そうに聞いてきた。優しい男だ。ジュンを心身ともに傷つけたくないのだろう。まあそれは俺だって同じだしベンも三郎も同意見だろう。
「もう、いいだろう。帰ってもらおうよ」
ジムは自分の意見も付け加えてきた。
「そうだな。その方が安全・・・か」
一抹の寂しさが胸をよぎった。ベンは怒るだろうか。あいつのために風呂まで入ったのにもうお別れでは。
俺の携帯が震えた。商売柄俺達の携帯は全員対衝撃防水タイプだ。取り出して画面を見ると三郎からだ。
「今夜鈴木夫人と接触のチャンスがある。お前も付き合え」
取ると同時にぶっきらぼうに切り出しやがった。仕事中なんだからお疲れの一言くらいあってもいいじゃないか。ま、いつものことだが。
「俺もか? ジュンどうする」
「ジムに見ててもらえよ。そこに閉じ込めとけば危険はないだろ」
奴の声がさらに冷たくなった。なんとなく後ろ髪引かれているのを気づかれたか。
「閉じ込めておけると思うか?」
「まぁ無理だろうな。薬で寝かしとくのが一番だが」
「起きた時何言われるかわからん。下手すりゃ訴えられるぞ」
作品名:便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン 作家名:ろーたす・るとす