遅くない、スタートライン 第2部 第4話 8/18更新
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午後3時の部がオープンするまで、キッチンは午後の分のスィーツを焼きまくっていた。美裕もこんなに来店客が来るとは思わなかった。昼に出す分にプラス2種類を新たにメニューに加えた。パティシエさん達は交代で千尋さんが作ったおにぎりやサンドウィッチを口に入れて水分をとってまた調理場に行った。俺達は座って昼ご飯を食べることができたが、すげぇな!俺は改めて思った…オープン前に美裕と加奈ちゃんが出演したテレビの前編が放映された。また今度の週末には後編が放映される予定だ。メディアの力もあるが、美裕と加奈ちゃん達が作ったスィーツもドリンクもメチャ美味しいと思った。俺は試食の段階で全種類のスィーツとドリンクも食べたし、飲んだ。有名なショップのケーキたちも食べたが、確かに美味いよ!でも美裕が作るスィーツは、口に入れた途端にふわぁっとして、口の中で素材の味がするんだ。美裕は一般的なケーキも焼くが、自分がアレルギー体質なので体に優しい食材を使って、素材の味を生かすのが得意エリアみたいだ。
お、キッチンでいい匂いがしてきた。雄介義兄さんと有ちゃんがトレーに焼きあがったタルトを持ってきた。
「MASATO先生!お味見どうぞって。パンプキンマフィンとパンプキンパイだって。あ、こっちがね!さつまいもで、ホイップたっぷりロールケーキとシュークリームと5種類です。感想をキッチンまでお願いしますって」
「俺もさっきもらったけど、超うめぇ!短時間でよぉ5種類も作るわ。美裕さん達」雄介義兄さんが言った。
「すごいですよん!じゃ…頂こう」俺はフォークでケーキをカットして、パンプキンマフィンから食べた。
全部食べた俺は…キッチンに行き、パティシエさん達に言った。
「全部超超美味かったっす!ごちそうさまでした」カウンターに手をついて頭を下げたら、パティシエ達は笑ってた。
美裕が俺にコーヒーカップを渡してこう言った。
「ありがとうございます。MASATO先生の笑顔で午前の分も完売し、午後も引き続きよろしくお願いします。報酬はカフェが落ち着いたら、美裕お手製料理バイキングでいかがですか?」その声に加奈ちゃん達が大笑いした。
「ありがとうございます。ぜひぜひ楽しみにしてます!」俺は料理想像したから、思わず手で口を押さえた。
それも大笑いされた。
午後の部がオープンし、午前ほどホール係も慌てることもなく接客に励んだ。ご案内したお客様の中で俺に…
「オーナーさん、お忙しいですかね?私達…美裕の友達なんです。あ、製菓学校の」
「おぉ…そうでしたか。ちょっと待っててくださいね」俺はキッチンに行って、美裕に伝えた。
アンタ…ホールで美裕と製菓学校のダチがハグして、また加奈ちゃんともハグして再会を喜んでいた。
「ありがとう!ユッキー・キョン・サーチ」美裕は顔を赤くして笑った。また加奈ちゃんも…
「応援ヘルプに来たんでしょ?アンタたち!用意してきた?」え、マジか?
3人は頭を上下にコクコクして、美裕に抱きついた。
美裕はまた目尻を押えていた。製菓学校のダチパティシエ達の応援に!3人とも…現役パティシエでホテルや有名ショップで働いていた。これで調理のスピードに拍車がかかったのは言うまでもない。午後6時の閉店にはケーキや焼き菓子が全部売れた!また会計係の千尋さんが…
「おぉ!!美裕ぉ!今日の売り上げアンタの予想してた金額の4倍いった!トータルは350,735円!」と声を張り上げた。
パティシエ達は喜びの声を上げた。美裕は信じられないって顔してるけど。
「き、今日はオープンだし…で、でも嬉しいぃ!」と横の加奈ちゃんに抱きついた。
「すごいよぉ!今日はオープンだけど!オープン日でこれだけの売り上げすごいよ!」
俺は頭で計算した。スィーツセットが税込みで800円とショーケースのケーキ・焼き菓子たちが150円〜350円で!そりゃ…全部完売したらそれだけの金額になるよ!ドリンクだって単品でも400円〜550円だし、どれだけのスィーツやドリンクが売れたのか…すごいや!
俺は美裕の頭をなでてやった!
「よぉやりましたな!初日で!美裕すごい!」
「ありがとう!MASATO先生がお客様笑顔で接待してくれて、いえ、今日までご協力ありがとうございました」
俺に頭を下げた美裕だ。また加奈ちゃん達も俺と美裕に拍手を送ってくれた。
今日はオープンだったが、明日からどーすんだろう?今日と同じパターンか?
カフェをクローズして、パティシエさん達は美裕んちの風呂に入り、ケータリングサービスのディナーを食べて今日の1日の疲れを癒した。俺らも疲れた!俺達男性陣も交代で風呂に入り、楽なカッコでケータリングを食べた。美味かった…都心の有名ホテルだった!美裕張り込んだな!
「一杯食べて!飲んで!明日の仕込みはしてるし、明日は11時開店だから!」美裕の声がホールに響いた。
明日11時なのか?俺は美裕の顔を見た。
「うん。今日はオープンだから…明日と明後日は11時から17時までです。ま、店のお客さんの足を見ながらね」
「だよね?カフェって朝食もやってるところあるし、シンプルにカフェとスィーツだけのところもあるし。美裕は行く行くはどーすんの?」
加奈ちゃんが美裕に聞いた。
「行く行くは、調理師の千尋さんもいるし、軽食とカフェスィーツで行きたいなと。朝食すると大変だし」
あぁ…なるほどな。朝食したら朝からカフェに行かなきゃ!美裕は新人作家だし…その辺を踏まえてだな。ま、兼業のも俺もわかる。
「軽食メニューはどうなんですか?千尋さん」俺は聞いた。
「今のところはね!サンドイッチとオムライスとかパスタで3種類にしようかと。あれもこれも出したら手が足りない!今はオープンだから通常とは違うし、行く行くは美裕がパティシエで調理師は私でホール3人ぐらいで回るかなって」
加奈ちゃん達はうんうん、うなづいた。あ、千尋さんはね!フェイシャルプランナーの資格も持っていて、経理も会計業務も資産運用もお手の物だよ!美裕もこの千尋さんに経営面は頼ってた!ま、どれだけ採算が取れるかだな!
夕飯を食べて、美裕達は「製菓学校同窓会」をしてたな。まぁおしゃべりに花が咲く!俺も引き込まれたが、明日の仕事を理由に早々に退散した。退散せんと加奈ちゃんに口割らされそう…あのオンナ!誘導尋問上手いの…美裕も油断してるとゲロさせられるそうだ。
美裕は俺が帰る時に、玄関まで送ってくれた。自転車にまたがった俺に…紙袋を渡してくれた。それもちょっと大ぶりな!
「持って帰れる?これ…エンゲージリングのお返しなの」
俺は紙袋を覗き込んだ。
「え…美裕これいいの?このメーカーいい値段するよ」
美裕がエンゲージリングのお返しにくれたのは、俺の好きなブランドのアタッシュケースだった。
「うん。明日から歌手部門として再出発だからね!それ使ってくれれば。マサ君…今日はホントありがとう!いえ、店の考案から今日まで一杯アドバイスしてくれて、今日オープンを迎えることがきました。ありがとうございました。」俺に頭を下げた美裕だ。
「イエイエ!俺も勉強させてもらったよ!カフェ軌道に乗るといいな。何か困ったり助がいる時は言えよ!美裕」
作品名:遅くない、スタートライン 第2部 第4話 8/18更新 作家名:楓 美風