遅くない、スタートライン 第2部 第4話 8/18更新
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時は桜の咲く季節になった。俺は新居に越してきてから2ヶ月が経った。時はもう3月の終わりだ…
窓を開けて春の風を部屋に入れた。朝の澄んだ空気は体に良いから、と千尋さんの教えでもある。今日の予定は…俺はキッチンの壁のホワイトボードを確認した。俺のテレビ局のドラマ書下ろしも先月完成し、もうロケが始まっている。俺は時々作品イメージチェックに抜き打ちで撮影現場に行ってやるんだ。今日もその予定だ…さて、朝飯食ってから出かけよう。
仕事前にいつも…美裕の家を訪問してから駅に行くバスに乗ることにしている。俺と美裕の家は自転車で5分の距離になった。美裕は先月にカフェスクールを卒業した。卒業制作のスィーツはとても素晴らしかった。見た目も味も!カフェスクールで卒業製作の成績はトップで、卒業式には学校長から表彰状と記念品をもらった。また養成上級スクールも美裕と他の2人は異例の2月で卒業した。コンクールの作品を応募してから教室には行かせていない。美裕もあとの2人も新人作家としてデビューしたからだ。また新人作家であるが、俺達と学校長と副校長の下で修業中である。
あぁ…話しておこう。1月に新人作家コンクールに応募した美裕達は…一般人も含む応募作品1,000本以上だった。また一般人でもプロ顔負けの実力を持つ人もいた。俺の先輩作家が審査員だったから、後日聞いた話だ。新人賞大賞は俺達作家が優勢だと思ってた作家が獲得した。いい作品だった…俺達が読んでも感動する作品だった。美裕達は…どうなったかと言うと!美裕の他の2人は優秀賞と審査員特別賞に入った。美裕は…新人準大賞をもらった!もぉ…俺らこれには電話が入って学校長が俺達にうなづいた時に、電話が終わるのがどれだけ長く感じたか!
「やったぁ!!樹美裕!新人賞準大賞だ。他の2人も優秀賞と審査員特別賞だ。樹美裕作品は新人賞大賞と数票差で逃したがね」
俺達講師陣同士で「万歳三唱」をして、まだカフェスクールにいる美裕を学校長室に呼びつけ、後の2人も呼びつけた。もぉ…3人とも信じられないって顔してて、俺達にハグされて肩叩かれて、現実に戻された。3人とも泣いた…俺達も目をこすって学校長と副校長も目を押えていた。この受賞で美裕達は、新人作家であるが養成スクール専属の作家となった。俺達と同じ所属オフィスになった。あ、俺もピンで仕事してるワケじゃないよ。学校長が作った作家プロダクションに所属してますの。
美裕が受賞した作品が3月の初めに活字となって小説読本雑誌に全文載った。あとの2人も!もぉ…養成スクールの生徒が増えたのは言うまでもない。現在、美裕はカフェオープンがもうすぐ迫っているので、5月から次作品を執筆予定だ。これも俺ら講師陣と学校長と組んでな!あ、あの坂下ったら美裕の家だ。俺は自転車のブレーキをちょっと加減しながら、坂を下りて行った。
おぉ…もういつでもオープンできそうだな。カフェの入り口に観葉植物も飾って、さっき店の前にトラックがいたな。オーダーした材料が届いたか。俺は自転車を勝手口に停めて店の中に入った。お、千尋さんと有ちゃんがいる!美裕のカフェがオープンするにあたって、スタッフさんが増えた。なんと千尋さんが調理師兼と経理を担当し、有ちゃんが臨時ホール係として入った。美裕はまた随時…スタッフを募集するとは言ってたが、オープンしてから様子を見たいと俺には言っていた。
美裕はキッチンでスィーツの試作品をカットしていた。横にはオープンサンドもあった。
「あ、マサ君おはよう。」手を止めずに俺に朝の挨拶をしてくれた。
「おはよう!あ、新メニューか?昨日は洋ナシのタルトで、今日は何?その横のオープンサンドもそう?」
俺の立て続けの質問に、有ちゃんが下を向いて笑った。千尋さんも手に口を当ててクスクスと笑った。
俺は新メニューのフルーツロールケーキとトマトとチーズのホットサンドを食べさせてもらった。また、お3人も朝食がまだだったみたいで、俺と一緒にカウンターで食べた。
「当日は、加奈ちゃんと加奈ちゃんの後輩パティシエさんが手伝ってくれて、臨時にメインパテシィエ様も3品作ってくれるの。あ、その時でいいんだよね?例の収録たち」美裕は俺にゆで卵を剥いて手渡してくれた。
「うん。この前収録した分と繋いで編集するってさ。あ、美裕さんは今日は店から出れるの?」
千尋さんと有ちゃんが俺の顔を見てまた笑った。ったく…この母娘は!美裕が返事をする前に千尋さんが口を開いた。
「いいよぉ…今日で試作終わったし。後は私が留守番にいるから!ちょっと連れ出してぇ。あ、ついでにオープン前にヘアスサロンとエステに連れて行ってくれない?この人…今週ちょっとずぼらになってるから」その声に有ちゃんが口を開けて笑った。当の美裕は下向いてうなだれていた。
美裕の支度を待ってる間に、俺は車を取りに行った。新居の買い物もあるし、美裕も問屋街に行きたいそうだ。あ、エステとヘアサロンに行ってからね!と千尋さんに念を押されていた美裕だ。美裕は車の中で手鏡を持って、自分の顔を覗き込んだ。
「そんなヒドイ?」と俺に聞いた。
「うん。いつもの美裕じゃないな。ちゃんと寝てるのか?千尋さんが帰ってからずっとキッチンにいるんだろ?足も浮腫んで痛いんちゃうんか?」
「エッヘヘ…ついね!あれもこれも作ってみたいと思い。あ、今日持って帰る?試作達!」
「頂きますけど、あ、おまえメシもスィーツか?」
「うん。味見だけでおなか一杯!」笑って答えた美裕だ。
こりゃ…メシも食わせなきゃ!俺が千尋さんに怒られるわ。ホント…一旦製作のエリアに入ったら、誰かが引きずり出さなきゃいけないんだな。こいつ!
俺は頭の中で今日1日の計画を練った。次の信号で美裕を見たら寝息を立てて眠ってた。俺はリアシートに手を伸ばして、美裕に俺のジャケットをかけた。テレビ局についても眠ってた美裕を起こして、一緒に局に入った。
作品名:遅くない、スタートライン 第2部 第4話 8/18更新 作家名:楓 美風