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[マル目線(前編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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人魚姫の思惑


「王子、お薬をお持ちしました。」

外遊で船旅に出て二日目。

慣れない船旅と今朝からの嵐で、王子は船酔いに苦しんでいる。

「うっ。」

口を押さえると、王子は部屋の外へ飛び出した。

「あっ、王子!ダメです!!吐くならここで大丈夫ですから!!!」

慌てて追いかけると、王子が吐こうと手摺に身を預けるのが見えた。

そこへ高波が…。

「王子!!!!!」

私は悲鳴のような声をあげながら、王子の腰にとびついた。

けれど波の力は凄まじく、私たちは二人とも高波に体をさらわれた。

私は荒れ狂う海の中でもがきながら、なんとか王子を抱えて海面に浮上する。

王子が飲んだ海水を吐くように、喉の奥に指を突っ込んだ。

「ぐっ!」

小さく呻くと、王子は勢いよく私の肩越しに嘔吐し、呼吸をし始める。

「良かった…。」

意識が朦朧としている王子を私は抱きしめると、流れてきた太い流木を掴んだ。

渾身の力をふりしぼってその流木に王子を乗せると、私は辺りをぐるっと見回す。

船と思われる灯りが、ずいぶん遠くに見えた。

私たちが海に落ちたことに気づいているのかも、この距離と雨ではわからない。

「頑張れば、船に戻れるかな…。」

私がポツリと呟いた時、横で美しい声がした。

「無理よ。とりあえず、小さな浜がこの先にあるからそこへ誘導してあげる。」

驚いて声の方を見ると、美しい少女が波間から顔を出してこちらを見ていた。

「…あなたは?」

警戒して王子を背に隠すと、少女は声を立てて笑う。

「私は海底国の姫。王子様に何もしないから、安心して。」

そして片手を上げると、前を泳いで行った。

(ついてこいってこと?)

信用していいのかわからないけれど、ずっとこの嵐の海にいても王子の体温と体力が奪われるし、これから夜になると更に危険になる…。

私は王子の青白い頬を撫でると、流木を押して姫の後を追った。

すると、10分ほどで本当に小さな砂浜にたどり着いた。

しかも雨風がしのげそうな小屋まである。

私は王子を担いで岸に上がると、小屋へ運び込んだ。

(なにか燃料にできそうなものは…。)

辺りを見回していると、浜から姫が声をかけてくる。

「私が今から乾いた布と火種を持ってきてあげるから、とりあえず準備してて。」

彼女の言葉に頷きながらその姿を見て、思わず息を飲んだ。

「人魚…。」

私の呟きに、彼女ははにかんで笑う。

「あなたたち人間と我が国は仲が悪いけど、私はずっとその美しい王子様に恋してたの。こうやってお役に立てるなんて思ってなかったから、本当に嬉しいわ。だから心配しないで。」

(海底国にまで、王子の美貌は通用するのか…。)

父上はその美貌ゆえ苦労されたそうだけれど、王子はいつもこの美貌に救われている。

同じ美貌でも、こうも違うのか…と、父上を思い出して少し切なくなった。

私は人魚姫の言った通り、そのあたりの布など柔らかそうなものをかき集めると寝床を作り、王子を横たわらせた。

そして火を起こせるように、燃やせそうなものを集め、即席の囲炉裏を作る。

そこへ外から声がかかった。

「取りに来て!」

私は急いで浜辺へ出ると、人魚姫から立派な乾いた布と火種を受け取る。

「水中からどうやって?」

「特別な術があるの。だけど長く保たないわ。とりあえず術が解ける前に持っていって!」

まだ激しく降り続く雨を弾く布と火種を私は抱えて頷くと、小屋へ走る。

走りながら、人魚姫に声をかけた。

「しばらくお待ち頂けますか!?」

人魚姫は手をふって答えてくれる。

私は頷くと、小屋へ飛び込んだ。

そして、王子の濡れた衣服を脱がす。

だんだんと露になる王子の肌に、心臓が爆発しそうになる。

(平常心!平常心!私は男だと、王子は思ってるんだから!)

なんとか裸にした王子を、人魚姫からもらった布でくるむ。

そして火種を即席の囲炉裏に入れて火を起こすと、王子の衣服をまわりに立て掛けた。

「乾くまで、目を離さないようにしないと。」

火事を警戒しながら、とりあえず王子の冠を手に持って浜辺へ出る。

すると、人魚姫が水と食料を持って待っててくれた。

「待ってる間に、これも持ってきたわよ。」

明るく微笑む人魚姫に、私は深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございます。」

そして交換するように、王子の冠を人魚姫へ差し出す。

「私は王子の従者、マルと申します。…更に図々しいお願いなのは百も承知なのですが、もし可能であれば王子の船に、ここにいることを知らせて頂けないでしょうか。」

人魚姫は、冠を受け取ると私の言葉に笑顔で頷いてくれる。

「いいわよ。でも、ここらは浅いからあの巨大な船は入れないわ。
とりあえず連絡はするけど、王子と天気が回復してから合流の仕方は考えたほうがいいわね。」

「そうですね…。」

私がため息をつくと、人魚姫は私を上から下までなめるようにみつめた。

「…あなた、どっち?」

一瞬、言われた意味がわからなかったけど、ハッとする。

「…じゃ、よろしくお願いします!」

笑顔で誤魔化すと、水と食料を抱えて小屋へ走った。

小屋へ飛び込むと、王子が意識を取り戻したところだった。

「…マル…ここは?」

青白い顔の王子が、掠れた声で訊ねてくる。

(良かった、意識もハッキリしてそう。)

私は安堵のため息をつくと、そのあたりにあった乾いた布で頭と濡れた服を大雑把に拭いた。

「王子が嵐なのにバルコニーに出てしまうから、高波にさらわれたんですよ。」

王子が身を起こすのが、目の端にうつる。

「で、海上で途方にくれてたら、海底国の姫がここを教えてくれたんです。
ちなみに王子が今纏っている布や、今から差し上げる水や食料、この火種も全てその姫から頂きました。」

言いながら、私は水と食料を王子に手渡した。

「マル、おまえびしょ濡れじゃないか。」

王子は受け取った水と食料を脇に置くと、自分が纏っている布を一枚とって、私の頭にかぶせる。

「おまえも脱いで、これを纏いな。」

(うっ…。)

私は慌てて布を取ると、王子の体をくるむ。

「いえ、これはあなた様に姫がくださったものなので、私が使うことはできません。
このくらい、私はなんてことないですし、火のそばにいれば乾きますのでお気になさらないでください。」

王子のその暖かい気遣いだけで、充分だった。

すると王子は一口水を飲んで、私にそれを、差し出す。

そして食料も、二つに分ける。

「これは素直に受け取って。」

そう言って柔らかく微笑む王子の優しさに、胸がじんと熱くなる。

「おまえ…ほんとに優秀だな。僕の従者になんて勿体ないよ。」

いつになく落ち込んだ口調で呟く王子に、なんとなく距離をあけられた気がして、私は寂しくなる。

(いつもみたいに、悪態をついてくれなきゃ…。)

「優秀な主に、優秀な従者は必要ないでしょう。」

私が嫌味を言っても、王子はもぐもぐと食べながら呟く。

「かもなー。じゃ、僕はおまえにとって、ちょうどいいのか。」

(『僕はおまえにとって、ちょうどいいのか。』)