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[マル目線(前編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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王子と王様親子のあたたかい様子を見つめながら、私は故郷の家族を思い出し、胸が切なく痛んだ。

そんな私を王様がニヤリとしながらふり返り、声を更に圧し殺した。

「我が王子の通訳を、密かにしてくれぬか?」

その意外な申し出に、私も王子も王様を見た。

「王子は、とりあえずマルが教えた言葉をそのまま流暢に言えるように、発音とスピーチの練習をしておくように。」

(えええ?)



その日から、出発までの一ヶ月間、私による秘密の猛特訓が始まった。

王子は外遊ということもあって、観念したように特訓を受けた。

「王子、これだけ練習したら少しは文法も理解できるようになってきたんじゃないですか?」

いよいよ明日から外遊に出掛ける王子の荷物を準備しながら声を掛けると、王子は紅茶を飲みながらこちらをギロッと睨んだ。

「嫌味。」

(…理解できてないんだ。)

「ピーマン。」

私はボソッと呟く。

王子が口をへの字に曲げて頬を膨らませるのを背中で感じた私は、そちらを見ないまま更に呟いた。

「でも、耳がいいから流暢に発音できるようになりましたよね。読むのもスムーズになったし。まさか本当はわかってないピーマンだなんて、誰も思いませんよ。」

言いながら鞄を閉じ、笑顔で王子をふり返ると、王子は憂鬱な顔でバルコニーを見つめていた。

「マルは嫌味さえ言わなければ、すごくいい従者なのにさ~。」

その言い方が甘える子どものようで可愛くて、私は思わず笑顔になってしまった。

「ま、外遊中はご機嫌を損ねないようになるべく嫌味は控えますね。」

すると王子は顔を輝かせて、私を見た。

「そしたら、僕めっちゃ頑張るよ!」

(可愛いなぁ。)

この素直さが、王子の最大の魅力だと思う。

なかなか人は、こんなに純粋ではいられない。

特に私は忍なので、調略の為に感情を偽ることも隠すことも平気でする。

普段から感情をあまり表さないように幼い頃より訓練されているので、王子のように感情豊かな人は眩しくてたまらない。

そばにいると、心に光が差し込むようで、私は王子のそばを離れがたくなっていた。