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[マル目線(前編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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「だから、マルがめちゃ気にかけてたんだ!」

王子は冠をとると、自分の頭をぐしゃぐしゃとかきまぜる。

そして膝に突っ伏したかと思うと、私を斜めに見上げて切なく目を細めた。

「苦労かけて、ごめんなー、マル。」

そんな表情をされると…思わず抱きしめてしまいたくなる。

私はそんな衝動を理性でねじ伏せて、敢えていつも通り辛辣に返した。

「ほんとですよ!マジでピーマンなんだから!」

すると弱りきっている王子は、それを素直に受けとめる。

「いや、もうその通りだよ。僕があの時、バルコニーに出なけりゃこんな苦労、おまえたちにさせなくてすんだのにさ。」

王子は言いながら、再び自分の膝に突っ伏す。

少しして顔を上げると、冠をつけ直し、人魚姫の前に跪く。

「姫、あなたの人生も僕が変えてしまったんですよね。あの時、僕が海に落ちさえしなければ、あなたはただ僕を眺めるだけで、何の期待も抱かなかった。」

言いながら、人魚姫の手を包み込むように握る。

「僕を助けたことで、勝手に過剰な期待をしたのはあなたが悪いとは思うけど、そのきっかけを与えた僕がそもそも悪い。だから、そのぶんの責任は取らせて頂きます。…って、そのまま訳してよ、マル!」

(もー、偉そうに言うなら、自分で喋れるように勉強しなさいよ、ピーマン王子!)

私は王子を一瞥した後、言われた通り訳した。

その裏表のない素直な言葉に、人魚姫は戸惑いつつ、手を握る王子を見た。

「王子が叶えられるかはわかりませんが、お望みを仰ってみてください。」

私が王子の傍らに膝をついて紙を差し出すと、人魚姫がそれを受け取った。

そして少し考えて、さらさらとそこに何か書き付ける。

爺や様がその紙を受け取って、内容を確認した後、ため息をつきながら私へ後ろ手にそれを渡してきた。

「なに?」

王子が間近で私を覗きこむ。

至近距離で、端正な顔にエメラルドグリーンの瞳で見つめられると、心臓が大きくはねあがってしまう。

(やばいやばい、平・常・心!)

私は軽く咳払いすると、書いてある通りに読み上げた。

「『王子の妻になりたい。』」

王子があからさまに嫌な顔をして、目を伏せる。

そんな王子と人魚姫の間に、爺や様が体を滑り込ませた。

「お姫様。我が王子が相手では、苦労しますぞ。」

人魚姫がゆっくりと、爺や様を見る。

「まず、勉強が嫌い、甘えん坊で手が掛かる、性格は良いのだが無知なので色々な問題を起こす、そして極めつけが…女性が後を絶たない。」

人魚姫が目を大きく見開いて、王子を見る。

「あの美しい姿に目が眩み、中身がお馬鹿さんだと気づかずに女性が次から次へと寄ってくるのですよ。…黙って立っているだけで…。そして王子も拒まず受け入れるので、そういう関係になった女性は数知れず…。」

爺や様の言葉を、そのまま王子に訳して聞かせる。

王子はソファーに深く体を沈ませると、妖艶に微笑みながら長い脚を高く組む。

(悪口言われてるのに、喜んでるし…なんか妙に色気を出してるし…。)

私は呆れながら王子から爺や様に視線を移したら、爺や様が見たこともない物憂げな表情をしていて、思わず笑いそうになる。

(迫真の演技だなぁ…いや、実は本音?)

そんな私をよそに、爺や様は身ぶり手振りも加え、だんだんと舞台俳優のようになっていく。

「手をつけては捨て、手をつけては捨て…もうその後の女性たちに渡す手切れ金だけで、我が国は破産しそうですよ!」

人魚姫が眉を下げ、私を見る。

「まぁ、少々盛ってる部分はありますが、ほぼ真実です。この誠実そうな外見に惑わされてはいけませんよ。正真正銘のクズですから。」

私の言いように、王子はムッとした顔で私を睨む。

「今、悪口言ったでしょ。」

「…。」

(爺や様だと喜んでたのに、私だと怒るって、理不尽じゃない?
ていうか…よくわかったな。)

私と王子が静かに睨み合っていると、爺や様が人魚姫に改めて訊ねた。

「いかがされますか?人魚姫様。」

人魚姫は、王子をじっと見つめる。

王子はチャラい微笑みをわざと浮かべて、人魚姫を妖艶に見つめ返す。

しばらくそうして見つめあった後、姫は手を差し出した。

私が紙とペンを渡すと、さらさらとしたためる。

「なに?」

王子が私に、顔を寄せてきた。

(うわぁっ!だから、自分の美貌を少しは自覚して!!)

いちいち跳び跳ねる鼓動を私は理性でねじ伏せて大人しくさせつつ、訳した。

『一週間一緒に過ごしてください。それであなたの愛を得られなかったら、水の泡となって消えますから。』と書いてあった。

王子に翻訳すると、あからさまに嫌そうな顔をする。

「一週間?いやいや、明日には国に着くし。国には連れて帰りたくないし…。しかも水の泡となって消えるとか…脅しじゃん。それ、僕が殺すようなもんじゃん!これで万が一海底国に逆恨みでもされたら…どうすりゃいいの!?」

(ごもっとも…。)

パニクりながらも、なかなか冷静な考えを見せた王子に、正直驚いた。

王子、もしかして結構できる人なんじゃないかな?

(今はまだ若いから気分や興味に左右されてしまっているけど、その気になったら、すごくいい政治をしそう…。)

「で、どう返事されるんですか?」

頭を抱え込む王子に声をかけると、王子は憂鬱な表情で私と爺や様を交互に見た。

「あんだけクズアピールしても、気持ちが変わらないって…すごいね。」

(たしかに。)

「あ。」

王子が突然、目を輝かせる。

「いいこと思いついた!」

(ほんとにいいことか?)

なんだか嫌な予感がする私は、爺や様の顔を見た。

「それは素晴らしい!」

(?いや、まだ何にも聞いてないし。)

爺や様の軽い様子に、私は目を瞬かせる。

「も~爺や、テキトーな返事しないでよ!」

王子は笑いながら、人魚姫に向き直った。

「とりあえず、明日には我が国に到着します。あなたには海辺に屋敷を用意しますので、そこでゆっくり過ごされてください。」

ニッコリと華やかに微笑む王子に、人魚姫はうっとりとした表情で嬉しそうに頷いた。

「マル、手配よろしく~。」

こちらをふり返った王子は、不敵に微笑んでいた。

初めて見るその表情に、今までにない気持ちがわきあがる。

「かしこまりました。」

王子が、何をしようとしているのかわからない。

けれど、不適に微笑むその王子を頼もしく感じ、初めて『守りたい』でなく『ついていきたい』と感じた。