「空蝉の恋」 第十五話
「違うよ。大学の先輩。バンドやっている音楽の仲間なの」
「ふ~ん、バンドね。楽しそうね」
「うん、今度ライブがあるから見に来てよ」
「ええ?演奏するの?学園祭で?」
「違うわよ。ライブハウスで。一人で来るのが億劫だったら、恵美子さん誘ってきてよ」
「恵美子さんを?ロックでしょ?好きかなあ~彼女」
「ロックじゃないよ。まあ、軽音楽っていう感じかな」
「一度聞いてみるわ」
娘の洋子は大学の仲間でバンド活動をしていた。子供のころよく弾いていたピアノが役にたったらしい。
恵美子は和仁も誘って行こうと言ってくれた。
私は少し気が引けた感じがしたけど、三人なら別に構わないかと考えた。
親バカなのだろうか、娘のいるバンドに大きな拍手と声援を送っていた。
帰って来て、洋子は和仁のことを尋ねてきた。
「一緒に来ていた和仁さんって、名前だけ紹介してもらったけど、恵美子さんのご主人なの?」
「違うのよ。幼友達なの」
「そう、じゃあ、いいけど」
「何がいいの?」
「怒らないで聞いてね。演奏中にママの方を時々見ていたの。そうしたら、隣の和仁さんが、ステージじゃなくずっとママの方を見ていらしたから・・・そのう、ちょっと気になったの」
私は返事に詰まった。
「そんなこと・・・知らなかったわ」
「ママは綺麗だから見られるって言うことは解るけど、和仁さんっていう人ママのことが好きなんじゃないのかな?なんて思っちゃった。怒っているんじゃないのよ、誤解しないでね」
「何を言い出すの!あの人五歳も年下なのよ」
「だから、誤解しないでって言ったじゃないの。別に男の人に好かれるって悪い気分じゃないよ。ママが誰かを好きになるのはちょっと嫌だけど、ちやほやされるなら私も自慢に感じられるの。母親がモテるって、普通はないじゃない」
「モテたりなんかしないわよ。それより一緒のバンドメンバーのお友達の人ってギターを弾いていた人のことよね?とってもカッコいい人だと思うわ。彼になってくれるといいね」
「話しすり替えて・・・もう、彼なんかにはならないわよ。あの人モテるから、いっぱい彼女が、いや、女友達がいるのよ。尊敬できるけど、好きになれる相手じゃないの。言っている意味わかる?」
「もちろんよ。自分だけの方を見ていて欲しいものね。でもね、若いから、結婚なんて考えないなら、自由に恋愛したらいいってママは思うけどなあ~」
「ええ~ママ本当にそんなこと思っているの。びっくりした」
「そう、自由恋愛をすることがあってから、結婚した方が良いって思ったから」
「パパとのこと後悔しているのね?」
私は洋子の質問に返事が出来なかった。
本心が出てしまったのだろうか。それとも自分の心の深い部分に恋愛を楽しみたいと思う悪魔が潜んでいるのだろうか・・・
作品名:「空蝉の恋」 第十五話 作家名:てっしゅう