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[完結]銀の女王と金の太陽、星の空

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「頭領が里を去ってから、本当に俺たちは苦労したんです。頭領が受けていたレベルの仕事をできる者がいないとなると、依頼がどんどん減って…餓死者まで出始めたんですよ。」

これはきっと、私の妊娠に最初に気づいた男の声だ。

するとため息と共に、じゃらりと鎖の音がする。

「…俺に、そこまで依存されても困るんだけど。俺は自由になるために前の頭領の一族郎党を一掃したのに…俺には俺の人生を自由に送る権利すら許されないわけ?」

懐かしいその飄々とした物言いに、私の胸は熱くなる。

私はお腹に手を当てようとして、初めて手を後ろ手に縛られていることに気づいた。

「頭領はもう死んだことにしている。遺体を女王サマに送りつけてやりましたから。」

拐った男が笑いを含みながら、言った。

「だから、もう誰もあんたの帰りを待っちゃいない。今日だって、女王サマ、別の王子と挙式してましたよ。」

一瞬、その場がシンと静まりかえったけれど、すぐに地の底から聞こえてくるような低い笑い声がし始める。

その声は背筋がぞくりとするほど怒りを感じる、恐ろしいものだった。

「くっくっくっ。やっぱりバカだな、おまえら。」

低い声で、空が言う。

「何度も言ってんだろ?ニワトリ並か?おまえらの脳みそは。」

笑いを含んだその言葉には、隠しきれない苛立ちを感じた。

「そもそも、女王サマにとって俺はただの間男。男に満足できてねぇから、男娼の俺で欲求を満たしてただけなんだよ。お互い、なんの感情もねぇ…って何回も言ってんだろ!」

最後は吐き捨てるように言った。

(…ちゃんと、わかってくれているよね?挙式の理由…。)

私はいつになく感情的な空の口調に、胸がざわついた。

拐った男は敢えて太陽が空に扮していたことを言わないから、誤解を招いている気がする…。

「じゃあ、この女がどうなってもいいんですよね?頭領。」

その言葉と同時に目の前が開き、暗闇に差し込む眩しい光に目をつぶった。

そんな私の襟首を乱暴に掴むと、拐った男が私を放り投げた。

腕を後ろ手に縛られているので、庇うこともできずにお腹をしたたかに床に打ち付ける。

再びお腹に鋭い痛みが走り、私は小さく呻いた。

そんな私の頭上で、ジャラッと鎖の軋む音がする。

私はゆっくり目を開くと、音のしたほうを見上げた。

「…空!」

空は両手首と両足首と腰に鎖をつけられた状態で、大の字で宙に吊るされていた。

その顔にはアルミのマスクと黒い布のアイマスクをつけられていたけれど、私の声に息をのむのがわかった。

「頭領、せっかく挙式をじゃましてやったんですが、どうでも良かったんですよね。」

拐った男が、空のアイマスクを外す。

「おい、女王サマ。今日、式を挙げていた王子に満足できていないんなら、今から俺たちが相手してやるよ。」

言いながら、私の忍装束を乱暴に脱がせてくる。

「!!」

私は必死で抵抗するけれど、あっという間に服を全て脱がされてしまった。

「おまえら!それ以上のことをしたら、取り返しのつかねぇことになるぞ!!」

拐った男は薄い笑いを浮かべながら、私の顎をつかみ空を見上げる。

「そんな状態で、何ができるって言うんですか?」

そして私を見ると、私の下着に手をかける。

「い…いや!赤ちゃんが死んでしまう!!」

私が泣き叫びながら空を見上げると、空が目を見開いた。

「赤…ちゃん?」

掠れた低い声で呟く空に、拐った男が狂ったように笑う。

「ははっ!心配しなくても、もう死んでるよ!!こんだけ出血してたら生きてねぇだろ!」

(!!)

私は一気に背筋が凍った。

「…うそ…うそよ、空…ちゃんと守…。」

涙が一気に溢れ、視界が霞ながら空を見つめると、空のその全身が恐ろしい殺気に包まれた。

「ぁぁああああああ!!!」

空が獣のような唸り声をあげた瞬間、どこからともなく狼が飛び込んできた。

次々に飛び込んできた狼が、空の足元に座る。

「こいつらを殺れ。」

心臓まで凍りつくような冷たい声に、狼が立ち上がる。

「まっ、待ってください、頭領!!」

傍観していた男が、鍵を空に見せる。

「拘束を解きます。もう二度と、こういうことはしないと約束します!だから命だけは!!」

私に覆い被さっていた男は、素早く武器を持ち、私の首に刃先を押し当てる。

「狼を放つなら、こいつを殺します。」

私の首を掴んで無理矢理立たせながら、男は後ずさる。

私は空と視線を交わす。

一瞬交わした視線は、鍵を持つ男へ向く。

「彼は、私を労ってくれたわ。」

「余計な口、きくな!」

刃先が喉へ刺さり、ちくりと痛みが走る。

それでも、私は空から視線を外さない。

(必ず、何か合図があるはず。)

空は鍵を持つ男を、ジッと見つめた。

その瞬間、男の体が硬直する。

「バ、バカ、流(りゅう)!目を合わせるな!!」

妊娠に気づいた男が慌てて鍵を持つ男の目を手で覆ったけれど、もう遅かった。

流と呼ばれた男は、目を覆う手を払い除けると、空へ近づき拘束を解き始める。

すぐに解放された空は、アルミのマスクを外して流に告げる。

「女王を助けろ。」

狼は唸りながら空の足元に集まり、次の指示を待っている。

その横を流は武器を構えながら通りすぎ、通りすがりに妊娠に気づいた男の喉を掻き切った。

「流!」

私を人質に取っている男が呼び掛けるけれど、返り血に染まる流は瞬きもせずに無表情でこちらへ歩み寄る。

空は狼たちを見回した後、再び私を見つめた。

そしてスッとその切れ長の瞳を細めて顎をしゃくる。

私はゆっくり瞬きをしながら微笑んで、了解の合図を送った。

その合図に、空も微笑んでくれる。

「殺れ!」

空の声と同時に私は体を後ろへ大きく反らし、倒れた。

けれどその体はすぐに力強く抱き止められ、そのまま抱きしめられる。

顔と耳を覆うように抱きしめられた私は、遠くで断末魔の叫び声と獣の唸り声を聞いた。

空はそのまま私を抱き上げて、扉を出る。

空に抱かれた私はその首にギュッと抱きつき、大きく深呼吸をした。

(空の香りがする…。)

私は心の底から安堵して、そのまま意識を失った。