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③銀の女王と金の太陽、星の空

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「俺は、反乱の旗揚げ当日、前線へ行くふりをして、自分の手下達を連れ里を抜けた。その時、母も連れて行きたかった。でも、母はもう正気を失っていたし、こちらは狼を入れても20人いない少数…。母を連れ出すことができなかった…。だから」

そのとたん、地下牢の奥から甲高い笑い声が響いた。

「なんと言い訳しても、おまえは自分の母親を狂わせ、殺したのよ!」

「か…母さん!」

太陽が駆け出す。

将軍と銀河も、その後を追った。

涼の言葉に空が傷ついているのではないかと思って、恐る恐るその表情をうかがう。

すると、口元は黒い布で覆われているので表情がわかりにくいが、その瞳は瞬きもせず氷のように冷ややかに冴え渡って、一点をジッと見つめていた。

(これは…大丈夫じゃない感じよね?)

一見、冷静で無感情ないつもの表情に見えるけれど、昨夜空と深く関わり合ったからか、その奥深いところの気持ちをなんとなく感じ取れるようになっていた。

私は空に近づくと、そっとその手を握る。

すると、空はビクッと身を震わせ、私を斜めに見た。

「空。」

私が微笑みかけると、空はようやく瞬きをし、その瞳を緩めた。

「聖華…。」

絞り出すように、掠れた声で名を呼ばれた。

それに答えるように、握っていた空の手を改めてギュッと握った。

空は私を見つめた後、そっと私の首筋に手を滑らせると髪をかきあげる。

そして後頭部の生え際を覗きこんだ。

「髪、なんで今日はおろしてんの。」

その言葉で、ハッとした私は、空を軽く睨んだ。

「そうだ、空!アザ残したでしょ!」

首筋を手で覆いながら言うと、空は自分のつけたアザを確認し、満足気に微笑む。

「俺のって、印」

低く艶やかな声で耳元で囁かれて、心臓が跳び跳ねた。

「そばにいない間に、他の男のものにならないように。」

その言葉に、再び空の余韻が甘く疼く。

「空以外のものになるわけないでしょ。」

私はそれをごまかすように、空の手をぐいっと引っ張ると、早足で地下牢の奥へ向かった。

地下牢に私の足音だけが響く。

やっぱり、空はわずかな音すらしない。

けれど今は空の腕を掴んでいるし、昨夜の余韻がまだ残っているおかげで、空の存在を実感できる。

しかも後ろで、空が声を殺して笑っているのが伝わってくる。

私は、その事が嬉しくて嬉しくて、思わず口元がほころんだ。

(良かった、笑ってくれて。)

地下牢の突き当たりの角を曲がると、既に牢から涼が出ていた。

将軍と太陽が涼の前に立ち、その後ろに銀河が控えていた。

私は緩んでいた表情を引き締めながら、空の腕を離し、涼の前へ歩み寄る。

涼は私の肩越しに、誰かを見た。

「良かったわね、親子の名乗りができて。」

その視線を追うと、妖艶に微笑みながら、涼が空を見つめていた。

涼はその視線を将軍へうつし、花が咲くように笑う。

「あなたも、優秀な子どもがまた増えて良かったわね。」

将軍は、なにも答えない。

「あら、美しくて一流の忍でも、男娼だとやはりご不満かしら?」

その瞬間、思わず私は涼の頬を平手うちにしていた。

「聖華様!?」

涼が頬をおさえながら、鋭く睨んでくる。

「同じ苦しみを…蔑まれる悲しみを、あなたも太陽も味わってきたはずよ。」

涼はハッとした表情で、太陽を見た。

私は太陽の横に立ち、その腰の剣に手をかける。

「しかも、あなたは空のお母様に助けられたのに…恩を仇で返すの?」

言いながら、音を立てて剣を鞘から抜き取った。

太陽が驚いて、私を見下ろす。

それに構わず私は、剣を涼の喉元に向けた。

「私は、あなたの、乳母ですよ。」

涼は顎を上げて喉元に迫った剣を見つめながら、上ずった声で訴えてきた。

「ええ。私の世話をしながら、私の家族を手にかける、立派な乳母だったわ。」

冷たい笑顔を向けると、涼は唇を震わせた。

「太陽の目の前で、太陽の剣を使って、私を殺せるはずないわ。」

私は、横目で太陽を見上げた。

「先の反乱に加担し、歴代王を次々に暗殺した反逆者は、太陽の身内なの?」

太陽は、一瞬顔をひきつらせたけれど、その大きな碧眼で私をまっすぐに見下ろした。

「母さんとは昨日、別れを済ませた。目の前にいるこの人は、僕の母さんじゃない。そもそも反逆者なんか、僕の母親でもなんでもない。」

私は太陽と視線を交わして小さく頷くと、涼に視線をうつした。

「太陽…。私はあなたのために…」

「反逆者、涼。」

私は涼の言葉を遮って、鋭く言った。

これ以上、太陽を苦しめたくなかったから、涼の言葉を聞かせたくなかった。

涼は太陽そっくりの大きな碧眼から、大粒の涙を流している。

私はそんな涼の喉元に剣を突きつけたまま、まっすぐに見据えた。

「聖彌(せいや)王、優華(ゆうか)女王、優彌(ゆうや)王を暗殺し、先の星一族の反乱に加担して国政を不安定にした罪で、極刑に処す。」

そしてその喉元に一気に剣を突き立てようとしたその瞬間。

「…っ!」

声にならない声をあげて、涼の体は一瞬硬直した後、そのまま壁に背を擦り付けるようにしながら床に崩れ落ちた。

うつぶせに倒れたその首には、見慣れない暗器が突き刺さっている。

見上げると、いつの間にか壁の高い位置に空がぶら下がっていた。

空は軽やかに飛び降りてくると、涼を冷ややかに見下ろした。

呆然とする私に近づくと、空はそっと私の手から剣を取り、太陽の腰の鞘におさめた。

「…空…。」

ようやく絞り出した声は、みっともないくらい掠れて震えていた。

空はそんな私の頭に右手を乗せると、そっと銀髪を撫で下ろし、自分の痕を残した首筋に手を添える。

「俺の仕事、とらないで。報酬もらえないじゃん。」

冗談ぽく笑うと、柔らかく切れ長の瞳を細める。

それから太陽に視線を移すと、空は低く艶やかな声で静かに言った。

「親殺しは、俺だけで十分。」

言いながら左手で、太陽の頭をぽんぽんとたたいた。

その瞬間、太陽の両瞳から涙が溢れだし、そのまま空にぎゅっと抱きついた。

「兄…さんっ!!」

太陽の言葉に、空は大きく瞳を見開いた。

私が将軍と銀河をふり返ると、ハッと我に帰った様子で太陽と空の元へ歩み寄った。

空は自分にしがみついて泣く太陽を、両腕でギュッと一度抱き締めると、そっと体を離して将軍に太陽を託す。

そして涼の亡骸の前にしゃがむと、首に刺さった暗器を引き抜いた。

「すぐ抜くと血が噴き出すからね。」

飄々とした口調で言いながら、暗器を振って血をはらい服で拭った後、腰にぶら下げ直した。

「裏で処理しとこうか?」

空が涼の亡骸をチラリと見ながら、言った。

私は太陽と将軍に向き直る。

「涼のことは表に出せないわ。申し訳ないけれど、このままここで弔いを済ませて、空に秘密裏に葬ってもらうのが、太陽の将来を考えると一番いいと思う…。」

太陽は濡れた碧眼で私を見ると、床に両手をついて頭を下げた。

「本当に…申し訳ない…!」

将軍も同様に、私の前で両手をつく。

「寛大なご処置、感謝致します。」