③銀の女王と金の太陽、星の空
空の黒水晶の瞳をのぞきこめば、それはいつもの冷ややかさも冷静さもなく、動揺で揺れていた。
「将軍が…一時期のめりこんでいた…高級娼婦の蓮に、あなたそっくりだわ。」
私は空の手を必死で押し止めながら、涼を見た。
「24年前のある日、蓮は突然姿を消したの…ずいぶん将軍は探し回ったけれど見つからなくて…その後、私が蓮の代わりのように御手付きになって…。」
24年前…空は今23才。
「私は…将軍の夜伽のときに、蓮のことを色々聞かされたわ。その中で『娼婦は隠れ蓑で本当は忍の頭領だ』と知って、忍の里をまわってようやく見つけたの。蓮と…蓮の息子を。」
(え!?)
驚いて空を見上げる。
空は、眉間に皺を寄せ、涼の首に当てたままの鎖鎌を再び横にひこうとする。
私は思わず、空の手に噛みついた。
空は小さくうめいて、涼を掴む力が緩む。
その隙に私は涼を突飛ばし、鎖鎌を自分の首に当てた。
「せっ…聖華!!!」
銀河の焦った叫び声がする。
空も大きく目を見開いて、鎖鎌から手を外そうとした。
でも私は空の手ごと鎖鎌を握りしめ、自分の首に刃先が食い込むように強く押し付ける。
「どういうこと?空。」
鋭く見上げると、空はピクリと体をふるわせる。
そして涼を一瞥し、銀河を見つめた。
そのままゆっくりと切れ長の黒水晶の瞳を私へ向けると、その瞳を大きく揺らす。
「もしかして、太陽が2年前に処刑した頭領って、空のお母さまなの?」
空は、形のよい唇をきゅっと引き結ぶ。
その表情は今まで見たことないくらいあどけなく、抱きしめて庇いたくなるほど弱々しく見えた。
「その物証の契約書は、涼とあなたのお母さまの取り交わした契約書なの?」
心が痛みながらも、更に空に詰め寄る。
銀河も、黙って空を見つめる。
「あなたは、太陽にお母さまを…殺されたの?」
すると、空は首を大きく左右にふって、弱々しく答えた。
「太陽王子が処刑した『頭領』は、影武者だ。」
私は首から鎖鎌をはずすと、床に落とした。
「え?」
(ということは…。)
「女が頭領だと目立つので、表向きは男の忍びが影武者として『頭領』を名乗っていた。」
「じゃあ空のお母さま…蓮はまだ…。」
期待を含んだ私の問いに、空は今にも泣き出しそうにその切れ長の瞳を細めた。
「母は、反乱鎮圧の時に…俺が殺した。」
衝撃の告白に、涼も私も銀河も息をのんだ。
「奴等が反乱を起こしたときに、俺は自分の手下たちを連れて身を隠した。母も連れていきたかったが…もう狂っていたので、連れていけなかった…。」
(狂っていた?)
そこまで言うと、空は涼を一瞥し、その足に枷をつけた。
「女王、これ以上は…。」
空は苦しげに息を吐きながら、すがるように私をジッと見つめてくる。
私もその瞳を見つめ返した後、銀河をふり返った。
「ごめん、銀河。いったん私は空と私室へ戻って事情を聞いてくるわ。その報告と涼の尋問の続きは、また明日。」
銀河が小さく頷いたのを確認し、私は空を伴って私室へ戻った。
作品名:③銀の女王と金の太陽、星の空 作家名:しずか