遅くない、スタートライン 第2部 第3話 8/13更新
俺と美裕は和室でシングルロングの布団を引いて寝た。美裕はその横にシングルの布団を引こうとしたが…
「一緒に寝よう!この布団やったら2人寝ても大丈夫や!おいで…美裕ちゃん」俺は美裕を手招きした。
「ったくぉもぉ!眠たいんでしょ?寝るだけよね?」と言ってやった私だ。
「うん。今日はな…あ、週末にどっか行こう。俺ちょっと息抜きしたいぃ。な!行こう」
「はいはい。私もちょっと休憩するぅ!買い物したいな…」
「はいはい。行きましょ!新居の雑貨達見に行って、お泊りしよう」
「もぉ…やはりそれが目的かぁ?マサ君は!」
俺は美裕の手を引っ張って、布団の中で美裕を抱きしめた。
「あのなぁ…この前いつしたと思ってるん?美裕ぉ…カウントしてる?」
「はぁ?何で私がカウントせなあかんのぉ?」
「いやそれはせんでいい。正月の雑煮食った以降ないんですけど?」
美裕は指を折った。
「あ、そうだっけ!あぁ…でも仕方ないやん。忙しかったし…それに」
「わかってるぅ。美裕あかんかったでしょ!誘った時に…あ、この前も誘ったけどはぐらかされた」
「ごめんねぇ!!はいはい…わっかりましたよぉ。エステ行ってくるわぁ。会長様に頂いたクーポンで」
「俺も行く!磨いて磨いて…週末楽しみにしとくぅ!ッデェ!!」
布団の中で美裕に足を蹴られた俺だった。
美裕もコンクールの作品も、学校長達のチェックも通り、その翌日に出版社に郵送された。他の2名はまだできてないそうだ。美裕が一番乗りだったか、俺的には嬉しい。ま、そのうち2人もできるだろう。俺は今週末に美裕とデートの約束をしていた。来月末には今のマンションも出なければいけない。片付けも進んではいるが、荷造りをしては雑誌やアルバムとか目に入り進まないのだ。美裕に言わせたら一番最後にしなきゃいけないと!美裕も1階住居から2階住居に移るのだが、近い未来は俺と同居するから仮眠が取れるぐらいのスペースがあればいいそうだ。2階はもと子ども部屋で3部屋あるらしい。千尋さんと健太郎さんが最近…自分達の部屋の荷物整理をしたらしい。やはり思い出の物を見つけては手が止まり、美裕が声をかけ作業を再開するというパターンがだったらしい。俺も思考を変えて大物から取り組んだもん。
俺はリビングのからくり時計を見た。おぉ…もうこんな時間だ。夕飯の支度をせんと…今日はもう寒いから外に出たくない。美裕は3日前から千尋さんと健太郎さんと出かけてていない。俺には姉兄で出かけてくるぅ。
今日は簡単に冷凍チャーハンと冷凍ラーメンで夕食を済ませ、食器を洗ったていたらインターホンが鳴った。誰だ?俺はインターホンのリモコンを手に取った。なんと樹姉妹…美裕と千尋さんだった。俺に手土産を持ってきてくれた!上野駅まで千尋さんのご主人・雄介義兄さんが迎えに来て、俺のマンションが近くだから手土産を持ってきてくれたそうだ。
「ごめんね!イキナリ…インターホン押しちゃって。これお土産」と千尋さんに紙袋をもらった。美裕からも紙袋をもらい…
「おじゃましました。冷凍もできるけどできたても美味しいよ。じゃぁね」美裕と千尋さんは俺に手を振った。
「あ、ありがとうございます。ごちそうさまです!あ、美裕家まで送ろうか?」俺は慌てて玄関に走って行った。
美裕は今日は千尋さんちに泊まるらしい。後で千尋さんちに行くといい、俺んちに上がってきた。千尋さんは雄介義兄さんと先にマンションに帰った。
「どこ行ってたの?それにこの土産…千尋さんと豪遊してきたん?」
美裕は電気ケトルをオンにして、テーブルに座った。
「あ、今日はね!」と話し出した。
樹姉兄妹は兵庫県に行ってたそうだ。亡くなった美裕のお母さんのお母さん…おばぁちゃんか!そのおばぁちゃんが90歳で「卒寿」のお祝いをホテルでしたそうだ。90歳のおばあちゃんは特別養護老人ホームに入っていて、子供・孫達で迎えに行ってホテルのレストランでお祝いしたそうだ。90歳でもしっかりしてて、杖もついてなく自分で歩いているそうだ。久しぶりにあった樹家の孫達の来訪も喜んでくれたそうだ。
「連絡もらったのが、ほら!マサ君が朝ごはん食べて帰ったでしょ?あの後だよ…たまたま健兄が休みでね。お祝いの後、樹姉兄…15年ぶりにそのまま神戸で観光してきました。高校1年まで神戸でいたからね!まぁ…懐かしくて当時住んでた家の近くまでいて!」
俺はこの時知ったんだが、両親を亡くした美裕達の後見をしてくれたのが、お母さんのお兄さんで弁護士さんだったそうだ。千尋さんは成人していたが、まだ22歳でその年に大学を卒業予定だった。このおじさんが両親が亡くなった後の手続きをしてくれたそうだ。
「そうなんだ…美裕のおじさん頑張ったんだな。俺もそうだよ」俺は親父が死後の話をした。
親父は自衛隊だった。自衛隊で海外公務中にテロに巻き込まれて死んだ。俺が15歳の時だった。当時、親父は長期で家を空ける事が多くて、俺は親父の大学時代の親友の学校長の家に預けられていた。家も近くてさ、自衛隊の官舎で暮らしてたけど居心地がいい学校長の家によく行ってたもんさ。また学校長の奥さん…愛姉のお母さんも俺を息子同様にかわいがってくれた。亡くなった親父は天涯孤独で児童施設で育ったそうだ。学校長とは大学時代にサークルで馬が合い、お互い結婚しても家族ぐるみの付き合いをしていた。俺の亡くなったお袋も仲良くしていたそうだ。お袋は俺を産んでから体調を崩し、肺炎であっけなく死んだそうだ。俺が幼稚園入学前に死んだ…学校長の奥さんが俺の入園式に出てくれた。俺も学校長が知り合いの弁護士にかけあってくれてた。それで俺は大学も卒業できた。
「マサ君も色々とあったんだね」俺の手の甲を指でチョンチョンと突っついた美裕だ。
「うん。だから…俺ら波長が合うんじゃない。同じような環境で育ってるから」
「かもしれないね!」俺も美裕の手の甲を指でチョンチョンとした。
俺達は…後年も同じようなことを言った。(*^^*)
作品名:遅くない、スタートライン 第2部 第3話 8/13更新 作家名:楓 美風