遅くない、スタートライン 第2部 第3話 8/13更新
(2)2日目も俺が目を覚ました時には、美裕はもう調理場に下りていた。ホント…パティシエって大変だよ。美裕は今日で終わりだけど、加奈ちゃんはそのまま正月用のスィーツも製作に入るらしい。よぉ体持つわ!美裕も昨日風呂に入った後で、手首にシップ貼ってた。足も!俺が肩揉んでる時にもう寝てたもんな。でも今日が終われば美裕も明日からフリーだ。俺には遊びの計画を練っておくようにとメモがテーブルの上にあった。はいはい!美裕が大満足するように、今からネット検索しホテル内探検に出ますとも!
昨日ほどではないが、メインパティシエのご好意もあって私は20時に上がった。加奈ちゃん達は交代で仮眠を取ってまた作業するらしい。神戸のパティシエ時代もクリスマス前後は地獄だったけど、加奈ちゃん達が作る量はハンパないわ。今日の午後には同系列のホテルのパティシエ達が応援に来た。それで私はお役御免となり、紙袋に一杯お土産をもらった。加奈ちゃんとはお正月休みに遊ぶ約束をした。
「たっだいまぁ!」美裕の声がした。今日はただいまって言うぐらい体力が残ってるか。俺はパソコンをオフにして玄関に行った。美裕の持ってた紙袋には加奈ちゃんオリジナルの焼き菓子が一杯詰まっており、またメインパティシエから都心の有名なケーキバイキングのクーポンをもらったそうだ。正月終わったら美裕と行く約束をした。
「お疲れ様です。今日は早いやん。俺22時過ぎかと思ってたわ」俺は美裕にホットミルクの入ったマグカップを渡した。
「うん。同系列のホテルの応援が入ったわ。私も応援入ったけど、すごいわ。加奈ちゃんはもう3日間家に帰ってないと」
「ハードやね!まだいてるんやろ?」
「うん。仮眠取って明日、明後日で終わらせるって!今年は特別注文があって、通常の…」
美裕は楽しそうに話しだした。神戸の老舗のショップもあきら先生が亡くなってから、もう出勤できない状態になり、お姉さんが美裕の代わりにショップに行き、オーナーシェフに退職させることを言ったそうだ。オーナーシェフも事情が事情だったから退職を受理してくれたそうだ。それから3年間美裕は入退院の繰り返しで、カフェスクールに入学してから久しぶりにケーキを焼いたそうだ。嬉しかった…と俺に言った。またケーキを焼こうという気持ちになれたこと、やはり自分はパティシエが好きなんだと、改めて思ったそうだ。
連日の疲れもあって、美裕は風呂に入ったらすぐ寝息を立てて寝た。明日から思いっきり遊ぶ為に。俺も寝ることにした…美裕を起こさないようにそっとベッドに入った。
翌朝から俺と美裕は遊びまくった。美裕が仕事してる間に遊びのプランを立てて、実際に施設と所要時間を計ってみた。美裕のリクエストも俺のリクエストも満たせるように俺は一生懸命作った(*^^*)
朝食バイキングで腹ごしらえをし、お互いのスポーツバックを持ちホテル内のテニスコートに行った。美裕が久しぶりにテニスがしたいと言った。中学時代は軟式テニスをしていたが美裕は硬式テニスできるんか?ホテルは硬式テニスだった。
「うん。できるよ!高校は硬式テニスで頑張ったし」俺の顔を見て笑った。美裕のジャージ姿を見て俺は紙袋を手渡した。
「何これ?」
「マサ君のお願い!着てください」美裕は紙袋を開けてみた。次の瞬間…俺は美裕にお尻を足でキックされた。
「イッデェ!!」俺の絶叫がテニスコートに響いた。
「下心見え見え!スケベ!」美裕が右手をワナワナさせた。
「ご、ごめん!美裕さん…男のあこがれ!お願い。うわぁ!」今度は美裕の左手が…
加奈ちゃん達はこれを調理室の窓から見ていた。
「ね…MASATO先生ってあの系?」
「美裕さん…こわぁ!」
「ップップ…MASATO先生って超天然?」
その声に、奥のメインパテシィエ達も笑ったそうだ。
ま…でも美裕はフリルのついたアンダースコートとテニスウェアを着てくれた。
「高校時代ならまだしも…アラサーなって着ると思わんかった。着て優雅にラケット振ると思わないでよ!MASATO先生。いくよ!」
ボールを上にあげ、ラケットを振った美裕だ。
「あぁ…MASATO先生走らされてる!美裕さん…小柄なボディだけど」
「あの女…パワフルよん。製菓専門学校の時のオリエンテーションで、男子学生とテニスしてストレート勝ちしたもん。後、その男子学生をオリエンテーション中にパシリに使ったし。MASATO先生知らないなぁ?あの様子じゃ…」
加奈ちゃんは俺にラインを送信した。ラインのIDを交換したんだ!仕事上これから連絡取るから。
「ん?加奈ちゃんや」俺はベンチにおいてあったラインのメッセを見た。
加奈ちゃんはため息のついた顔文字と…
「MASATO先生!美裕は切り札一杯もってるわよ。美裕は高校時代にインターハイ出て準々決勝まで行ったオンナよ。早くご機嫌取りなさい」
と…俺そんな知らんで。美裕は俺のスマホを覗き込んで、自分のスマホを操作した。
加奈ちゃん達は、慌てて窓を閉めてその場からいなくなった。
「さ、続きする?それともワビ入れて他の遊びにする?スケベのMASATO先生!」ニッコリ笑った美裕だ。
俺の返答は言うまでもない。ワビ入れて、次の施設に行った。
ったく…さっきの仕返しか?今度は自分の得意なエリアで私を小ばかにしたマサ君だ。どうせ…私は泳ぎは不得意よ!でも一応25メートルは泳げるもん。なのに…マサ君は私の横でバックターンを決めて、爽快なフォームでプールを泳いでいた。ゴーグルを取って…
「へぇ…テニスはインターハイまで出てるのに。水泳は平泳ぎだけしかできん。それも25メートル以上はムリ!俺が教えてやろうか?美裕…息継ぎできひんやろ?」と嬉しそうに言った。悪かったわね!どうせ平泳ぎしかできませんよ。
でも、この男ぉ!私が反論しないことをいいことに、後ろから抱きついてきた。
「な…俺が手取り足取り教えてあげるよぉ!美裕ちゃん」と調子づいてきた。
またその様子を…加奈ちゃんの後輩スタッフがホテル客のオーダーを持ってきて見たそうだ。もちろん、加奈ちゃんにその事が伝わったのは言うまでもない。
水泳が終わったら、ランチバイキングに行き俺達はガツガツ食べた。美裕は自分が食べれるものを見つけて、何回もお代わりしてスィーツは全種類食べてた。
「あ、これ加奈ちゃんだな。オレンジピールですかぁ!」チョコレートがけしたオレンジピールをジックリ見て、満足そうに口に入れた美裕だ。確かにそれも超美味くて、俺はメインパテシィエが作ったシュークリームを3個も食べた。俺達はスィーツはホント…限度ないわ。
おなかも一杯になったら、次は眠気だよ。俺達はホテル内にある個室エステに行った。(家族・カップルが使用してもいい)エステで磨いてもらった。美裕は横のベッドで気持ちよさそうに眠ってた。俺も途中で寝ちゃったけどさ。2人もエステティシャンに起こされてたぐらい爆睡していた。
作品名:遅くない、スタートライン 第2部 第3話 8/13更新 作家名:楓 美風